荒屋あばらや)” の例文
性格も陰欝で厭人的えんじんてきで、広い荒屋あばらやに召使の老婆とたった二人で住んでいて、人を訪ねたり訪ねられたりすることも殆どない様な生活をしている。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とある小山の麓に僅かに倒れ殘つた荒屋あばらやが即ちそれで、茅葺かやぶきの屋根は剥がれ、壁はこはれて、普通の住宅すみかであつたのを無理に教場らしく間に合せたため
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
さいわい近くにわしの住いがござる、荒屋あばらやではあれど、此処よりはましじゃ、それに君子は危きに近寄らず、増上慢ぞうじょうまんは、御仏みほとけもきつくおいましめのはずではござらぬか
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今の耳にもかわらずして、すぐ其傍そのそばなる荒屋あばらやすまいぬるが、さても下駄げたと人の気風は一度ゆがみて一代なおらぬもの、何一トつ満足なる者なき中にもさかずきのみ欠かけず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
門は破れ、屋根は傾き、雨は容赦なく漏れ、文字通りの荒屋あばらやである。しかし私はそういうことには割合平気な性格である。人倫の嘲笑には馴れ過ぎているからかも知れない。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
七日なぬか目の朝、ようようのことで抱主かかえぬしから半日のいとまを許され、再び母親を小石川の荒屋あばらやに見舞うと、三日が間、夜も昼も差込み通し、鳩尾みずおちの処へぐッと上げた握掌にぎりこぶしほどのものが
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
凹んだ疊の上を爪立つて歩かねばならぬ程の狐狸こりの棲家にもたとへたい荒屋あばらやで、蔦葛つたかづらに蔽はれた高い石垣を正面に控へ、屋後は帶のやうな長屋の屋根がうね/\とつらなつてゐた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「いや、ついこの先きですよ、ほんの荒屋あばらやですが」
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そをもふと、胸はひらけぬ、荒屋あばらやのあはれの胸も
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
君とともにたとえ荒屋あばらやに住まおうとも
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
磯邊に立てる荒屋あばらや
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
雨戸のほかに障子もない荒屋あばらやなので、八畳程の部屋の向うのふすままで見通しであったが、隙間の幅が狭いために、左右は限られた範囲しか見ることが出来なかった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
荒屋あばらやトつのこして米塩こめしお買懸かいがかりの云訳いいわけ家主いえぬし亀屋かめやに迷惑がらせ何処どこともなく去りける。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
地炉にほだの火が狭い荒屋あばらやの中を照らしていた。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そをもふと胸はひらけぬ、荒屋あばらやのあはれの胸も
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
この家がまた、化物屋敷のような古いこわれかかった西洋館で、木造二階建の、建てた時には相当の建物だったでしょうが、何分にも年数がたっているので、全くの荒屋あばらやです。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
立ち寄りて窓からでも投込まんと段々行くに、はたせるかなもみの木高くそびえて外囲い大きく如何いかにも須原すはらの長者が昔の住居すまいと思わるゝ立派なる家の横手に、此頃このごろの風吹きゆがめたる荒屋あばらやあり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこには、竹藪に囲まれ雑草の生い茂った空地に、一軒の荒屋あばらやが建っていた。六畳一間きりの屋内は、戸も障子もなくて見通しである。その部屋一杯に、色褪せた萠黄もえぎ古蚊帳ふるかやが吊ってある。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)