かな)” の例文
(妻としてなら、死にぎわに、一目の別れを許して下さるかも知れぬ。……もしそれがかなわぬ時は、せめて、死骸をここへ戴いて帰って来ましょう)
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
カフエーなどを歩き廻つたりすることがかなはぬのが、結局母親と自分の間を険悪にしてゐるのは承知してゐるものの
裸虫抄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
いつも眞赤まっかになってゐる……そのひめくちびるから永劫えいがうなぬ天福てんぷくそっぬすむことも出來でくる、ロミオにはそれがかなはぬ。
……あの思慮ふかい伯父上が、かならずと、こう書いておられる以上、よほどなお見通しがなくてはかなわぬこと。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「冗談といふことは、僕には考へられないんだ。ただ、その場だけを、酒を飲んで、笑つて済ませるといふデカダンには不幸にして陥入ることがかなはないんだ。」
裸虫抄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ヂュリエットがゐやる此處こゝ天國てんごく、こゝにかぎりはねこいぬ鼷鼠はつかねずみも、どのやうな屑々物はかないものも、ひめかほらるゝゆゑ天國てんごくにゐるのぢゃが、ロミオにはそれがかなはぬ。
「おことら夫婦が、これへ来たのは、山田申楽の座に修行入りせんためとあるが、それもこう、六波羅者のさまたげでは、しょせん、願いはかなうまい。それよりは」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
カピ長 むすめうばうてかせをる死神しにがみめに、このしたしばられて、ものふことがかなはぬわい。
以前から彼の心のすみには“山林さんりん”があった。“後生の願い”もたぶんにあった。すべてかなわぬねがいであった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここにご辺ならではかなわぬ大役がある。蜀のために、予の書簡を携えて、呉へ使いに赴いてくれまいか」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればよ! 丞相。これに来る以上、それがしとても、命がけでなくてはかなわぬ。然るに、血迷うて何しにきたかなどと、決死の者に対して、揶揄やゆするような言を
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分も、じつは芸道執心の者ですが、それもかなわず、むなしく、こう漂泊さすろうている者でございまする
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやいや。それが初めから、逃げられたら、逃げ切る。それがかなわぬ時は、素直に縄目をうける。覚悟は二つに決めていたのだ。どうもせん、それが当然だ、忠義だ」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よくお覚えおきくださいました。……それやもう、ぶんに過ぎた望みか存じませんが、もしそれがかなうなら、来世は馬にも驢馬ろばにもなって、ご恩報じをいたしまするで」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを今に復古して、実績をあげるには、なおいくたの困難と上下の協和とがなくてはかなわぬところで、真の御世泰平を仰ぐ日は、まだまだ遠い日と覚悟せねばなりますまい