すじ)” の例文
しんとしてさびしい磯の退潮ひきしおあとが日にひかって、小さな波が水際みぎわをもてあそんでいるらしく長いすじ白刃しらはのように光っては消えている。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あらん限りの感覚を鼓舞こぶして、これを心外に物色したところで、方円の形、紅緑こうろくの色は無論、濃淡の陰、洪繊こうせんすじを見出しかねる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平田は上をき眼をねむり、後眥めじりからは涙が頬へすじき、下唇したくちびるは噛まれ、上唇はふるえて、帯を引くだけの勇気もないのである。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
それからこうあっちに、畝々うねうねしたすじ引張ひっぱってあるだろう、これはね、ここから飛騨の高山の方へ行ったんだよ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いて来た大きな犬のデカと小さなピンが、かえるを追ったり、何かフッ/\いだりして、面白そうに花の海をみ分けて、淡紅ときの中になかくぼい緑のすじをつける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「成程、御若い方の読むんで、吾儕われわれの相手になるものじゃありません。ここの処なざあ、細いすじのようです」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
指の間へ挟んでみて指を開くと飴のようにすじを引いて色が白くなる処がちょうどいい工合ぐあいなのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それは日本でいえばメンコのような一種の土塊を拵えて、其塊それを遠く投げるのをこちらに居て打つというやり方、それからまたすじを描いて置いてその中に銀貨を入れて置く。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あの「天の岩戸」の暗闇を開いて、大衆の絶望の中に一すじの光が、大空をよこぎりそめる時の美しさ、あれもまた世界に比類なき「新しさ」「いさぎよさ」の一つの表現のしかたであります。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
かつて自分の眼光を射て心霊の底深く徹した一句一節はむなしく赤いすじ青い棒で標点しるしづけられてあるばかりもはや自分を動かす力は消え果てていた。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ふもとの川の橋へかかると、鼠色の水が一杯で、ひだをうって大蜿おおうねりにうねっちゃあ、どうどうッて聞えてさ。真黒まっくろすじのようになって、横ぶりにびしゃびしゃと頬辺ほっぺたを打っちゃあ霙が消えるんだ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こういうのは皮の光らない玉子に限る。皮の光ったのを割ると黄身も白身もダラリとして横に拡がる。それは古い証拠だ。そこでよく見給え、黄身の上に鳥の位なまるい小さなすじがあるだろう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
という一句が『エキスカルション』第九編中にあって自分はこれに太く青いすじを引いてるではないか。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私語ささやくごとき波音、入江の南の端より白きすじて、走りきたり、これにしたり。潮は満ちそめぬ。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
なる一句赤きすじひかれぬ。
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)