穴蔵あなぐら)” の例文
旧字:穴藏
かれらの手にかかることは、みな、秘密であり他聞たぶんをはばかるので、相談や打ち合せには、必ず、宗家の穴蔵あなぐら部屋に寄るものにきまっていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、それもこれもじきかれ疲労つからしてしまう。かれはそこでふとおもいた、自分じぶん位置いち安全あんぜんはかるには、女主人おんなあるじ穴蔵あなぐらかくれているのが上策じょうさくと。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ホールは気がるにひきうけ、じぶんの部屋へやからいいつかったびんをとりだし、穴蔵あなぐらへゆく階段かいだんをかけおりようとした。
たとえばふかふか穴蔵あなぐらおくったような具合ぐあいで、空気くうきがしっとりとはだつめたくかんじられ、そしてくらなかに、なにやらうようようごいているものがえるのです。
磯に沿うたがけと、小屋の支えになった乱杭らんぐいの間の細道を歩かせられて、どうやら材木小屋の下をくぐって深い穴蔵あなぐらの中へ引張り込まれて行くように思われてきました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
足元は無論穴蔵あなぐらの底を踏むと同然である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ふん、それじゃ、いッそ、死ぬまでこの穴蔵あなぐら隠居いんきょをしていろ。たぶんもう二、三年は、この屋敷の戸をけにくる人間はないはずだから」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人は、お手伝いのミリーよりも早く起きて、いつものように穴蔵あなぐらにしこんだビールにサルサこんからとったえきをまぜ、いちだんとあじをよくしようというのだ。
この絶対の避難地とも安全地帯とも言える穴蔵あなぐらの中で、いとも快き眠りをむさぼっているものですから、寝息とても非常に穏かなもので、昼寝の熟睡に落ちているのですが
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうしてかれは一日中にちじゅう、また一晩中ひとばんじゅう穴蔵あなぐらなか立尽たちつくし、その翌日よくじつもやはりぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「こんな穴蔵あなぐらの地獄に、なんの御未練でございます。御先祖様からの財宝を、残してゆくのが惜しいとでも……」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おかみさんは、まだ寝ぼけまなこをこすっているホールをひったてて、穴蔵あなぐらにおりていったが
世間の噂では持山の穴蔵あなぐらの中へ、先祖代々積み隠しておく金銀は莫大ばくだいとのこと、お上お調べのたかはいま申す通り古金二千両、新金千両、別に一分の太鼓判たいこばん若干とのことなれば
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ウン、ゆうべ沖の客船から、四、五人の旅人をさらってきて、この下の穴蔵あなぐらへほうりこんでおいたのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気に入らぬものはみんなくびり殺して、穴蔵あなぐらの底に投げ落してしまうのだそうでございます。現に、幾人かの人のしかばねが、胆吹の奥の山の洞穴の底に埋もれて、夜、青火が燃えさかるという話。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「じゃ、こうしちゃいられねえ。てめえたちは、穴蔵あなぐらにいる子分を呼びあげて、すぐおきの鼻へ、船をまわして見張っていろ。おれはあとから、早船はやぶねで追いつくから」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
穴蔵あなぐらの中にかくしてあるから、あれを持って来るよ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて——眼で見て初めて、穴蔵あなぐらみたいに、昼間でも暗いわが家の奥をおえつと共に覗きこんだ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漠々ばくばくたる密雲に、夕陽がしているような有様。深い穴蔵あなぐらの底へ万吉の声がひびいた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)