穀潰ごくつぶ)” の例文
以前から善く聴きなれている「業突張ごうつくばり」とか「穀潰ごくつぶし」とかいうようなことばが、彼女のただれた心のきずのうえに、また新しい痛みを与えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しゃべってつぶすのも、黙って潰すのも、どうせ僕見たいな穀潰ごくつぶしにゃ、おんなし時間なんだから、ちっとも御遠慮にゃ及びません。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あの役立たずが、もっと早くそうすればよかっただに、それがお互えのためだったによ、……まあいいだ、穀潰ごくつぶしが減ったでな、さばさばしただよ」
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
言ふんです。そして——あの女は働きがあるからお前のやうなお人形首の穀潰ごくつぶしとは違ふ——つて
惰眠をむさぼりつつ穀潰ごくつぶしをやっておる者共は、今日少くとも日本国民三分の一位はあるであろう。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
縦令たとひ石橋いしばしたゝいて理窟りくつひね頑固ぐわんことうことの如く、文学者ぶんがくしやもつ放埓はうらつ遊惰いうだ怠慢たいまん痴呆ちはう社会しやくわい穀潰ごくつぶ太平たいへい寄生虫きせいちうとなすも、かく文学者ぶんがくしや天下てんか最幸さいかう最福さいふくなる者たるにすこしも差閊さしつかへなし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
家禄はありながらかくなりゆくは、穀潰ごくつぶしとも知行ちぎょうぬすみともいうべし。(『太平絵詞』)
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この観客にさえわらわれる黒吉は、勿論親方にとって、どんなに間抜けな、穀潰ごくつぶしに見えたかは充分想像が、出来るのだった。従って、黒吉に対する、親方の仕打ちがどんなものだったかも——
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
何の得る所なき自己陶酔、キザな神様気取りの、聖者気取りの穀潰ごくつぶしが、一人出来上るだけである。日本国民は、一時も早くそんな陋態ろうたいから蝉脱せんだつして、一歩一歩向上の生きた仕事に従わねばならぬ。
ただ外見上は至極沈静端粛のていであるから、天下の凡眼はこれらの知識巨匠をもって昏睡仮死こんすいかし庸人ようじん見做みなして無用の長物とか穀潰ごくつぶしとか入らざる誹謗ひぼうの声を立てるのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今や狭い地球上——ことにこの狭い日本では、ろくでもない人間がえ過ぎてはなはだ困っている。怠惰者なまけものや意気地無しがドシドシ死んでしまえば、穀潰ごくつぶしの減るだけでも国家の為に幸福かも知れぬ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「書きたいさ。これでも書かなくっちゃ何のために生れて来たのかわからない。それが書けないときまった以上は穀潰ごくつぶし同然ださ。だから君の厄介やっかいにまでなって、転地するがものはないんだ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)