知人しるひと)” の例文
十萬世界の大地のちりは知人しるひともありなん。法華經ほけきやう供養の功徳くどくしりがたしとこそほとけはとかせ給てさふらへ、これをもて御心あるべし。
或るとき伊澤氏で、蚊母樹いすのきで作つたくしを澤山に病家から貰つたことがある。榛軒は壽阿彌の姪にあつらへて、それに蒔繪をさせ、知人しるひとに配つた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
わが昔の知人しるひとの僅に生き殘れるは、西班牙スパニアとうの下なるペツポのをぢのみにて、その「ボン、ジヨオルノ」(好日)の語は猶久しく行人の耳に響くなるべし。
きゝ段々厚き御世話に相成る事千萬忝けなし私し共に江戸は始めてなれば一かう不案内ふあんないにて知人しるひととても更に是なしと云ければ長兵衞はくびかたむけ夫ではまづ私しが此事御世話を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御恨おうらみ申はつみのほどもおそろしゝなにごとものこさずわすれておしうさまこそ二だい御恩ごおんなれ杉原すぎはららうといふおひと元來もとよりのお知人しるひとにもあらずましてやちぎりしことなにもなし昨日今日きのふけふあひしばかりかもおしうさまの戀人こひびと未練みれんのつながるはづはなし御縁ごゑん首尾しゆびよくとゝのへてむつましくくらたまふを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
矢島優善やすよしは本所緑町の家を引き払って、武蔵国北足立郡きたあだちごおり川口かわぐちに移り住んだ。知人しるひとがあって、この土地で医業を営むのが有望だと勧めたからである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そが間には軍服に假髭つけひげしたる羅馬美人ありて、街上なる知人しるひとに「コンフエツチイ」のたまなげうてり。
知人しるひとなしに、怪しうこと物にやいひ下されんぞそれもよしや。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
また老いさらぼいたる本人のためにも、長途の旅をして知人しるひとのない遠国えんごくに往くのはつらいのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ある日天気が好くて海がおだやかなので、香以は浜辺に出ていた。そこへ一隻の舟が著いて、中から江戸の相撲が大勢出た。香以が物めずらしさに顔を見ると、小結以上の知人しるひともいた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それの年の暮の事であつた。伊沢氏では餅搗をした翌日近火に遭つた。知人しるひとが多く駆け附けた中に、数日前にいとまを遣つた仲間が一人交つてゐた。火は幸に伊沢の家を延焼するに及ばなかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)