)” の例文
新字:
つことになるかも知れんのですし、それによしんば財産があるにしたところが、それでなくても隨分と出費がかさみましたんでねえ……
信吾の不意につて以來、富江は長い手紙を三四度東京に送つた。が、葉書一本の返事すらない。そして富江は不相變あひかはらず何時でもはしやいでゐる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼女は、夜の中にソーンフィールド莊をつたのです。搜索は總て徒勞に終りました。國中殘る隈なく探しても、一片の手掛てがゝりも得られなかつた。
さう思ふ私は、多くの興味をかけて東京をつて來たと同時に、一方には旅の不自由を懸念しないでもなかつた。地名のむづかしさには、まづ苦しむ。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さくらのわくらのぱら/\とちかゝるにさへ、をんなこゑて、をとこはひやりときもひやしてるのであつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其處そこよりたして、當藝たぎの上に到ります時に、詔りたまはくは、「吾が心、恆はそらかけり行かむと念ひつるを、今吾が足え歩かず、たぎたぎしくなりぬ」
都にも爲殘しのこしたる用事多きに、明日あすはいかにしても此處をたん。只一夜ひとよの宿りを……とのみ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
十二日の晩たしか九時いくらの汽車で鎌倉驛をつて來たらしいのですが、鎌倉署の部長さんだと思ふ、名刺には巡査飯田榮安氏とありますが、この方に發車まで見送られ
椎の若葉 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
秋まひる野には火花のつ見えて機關銃の音のたたたとひびけり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
(一年に三四囘しか見られない大きな船がつのだから。)
つて來る時には、必ず、アノ廣い胸の底の、大きい重い悲痛を、滯りなく出す樣な汽笛を誰憚らず鳴らした事であらう。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
つまりあなたがって行ってしまわれたあとで、追憶にふさわしい靜かな折々に、あなたのことを思い浮かべながら
「何も彼も片をつけてしまつた。私たちは明日、教會から歸つて後半時間以内に、ソーンフィールドをちませう。」
そして無理算段をしては、細君を遠い郷里の實家さとへ金策にたしてやつたのであつた。……
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
朝曇りのした空もまだすゞしいうちに、大阪の宿をつたのは、七月の八日であつた。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
薄月夜とどろ火のつたちまちをおのれぜ飛び兵微塵なり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
汽船ふねは此の島を夜半につ。それ迄汐を待つのである。
すなはち日向ひむかよりたして、筑紫にでましき。
結局「勝手になれ」と言ふ事になつて、信吾は言ひがたい不愉快と憤怒を抱いてふいとつた。それは午後の二時過。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
やしきの集りは散つて、ロチスター氏は三週間前倫敦ロンドンに向つてつた。しかしもう二週間のうちに歸つて來る筈だつた。
「どうも用件がのびのびになりましてね。しかし、——とにかく椅子は手に入れましたよ、しかもそれが昇進なんでしてね。明後日は必らずつつもりです。」
七月の十日は早く岩井の宿をつて來て、浦富海岸で時を送ることにした。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
大君のけふみそなはす軍馬なれひづめの音もさやかにつべし
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
奈何どう爲よう。奈何爲よう。」と、終ひには少しぢれつたくなつて來て、愈々以て決心が附かなくなつた。と、言つて、たうといふ氣は微塵もないのだ。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
先方あつちへ行くなと思へば、先方へ行く樣に見える。何處の港を何日いつつて、何處の港へ何日着くのか。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
(何處から來て何處へ行くのか知らないが、路銀の補助たしに賣つて歩くといふ安筆を、松太郎も勸められて一本買つた。)——その二人はつて了つて穢ない室の
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
凾館をつ汽車汽船が便毎に「燒出され」の人々を滿載してゐた頃で、其等の者が續々入込んだ爲に、札幌にも小樽にも既う一軒の貸家も無いといふ噂もあり、且は又
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
信吾は少し言ひ淀んで、『昨日つ時にね、松原君が上野まで見送りに來て呉れたんだ……。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)