痴情ちじょう)” の例文
Tolède Andalousieトレド アンダルジイ の国々よ。燃上るの声もなき狂熱を、君いづこよりかもたらせし。おそろしき痴情ちじょうの狂ひかな。
いだいていたかも知れず一概いちがいに利太郎であるとは断定し難いまた必ずしも痴情ちじょう沙汰さたではなかったかも知れない金銭上の問題にしても
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「落着きなさい。……痴情ちじょうわざのするところだ、めた後では、己れの心が、己れでもわからないほど、ないものになってくる」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一面からえば氏はあまり女性に哀惜あいせきを感ぜず、男女間の痴情ちじょうをひどく面倒めんどうがることにおいて、まったくめずらしいほどの性格だと云えましょう。
妹が聟養子を迎えると聴いたくらいでやけになる柳吉が、腹立たしいというより、むしろ可哀想で、蝶子の折檻は痴情ちじょうめいた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
貴方は、柿丘氏死亡の責任を、主治医の白石博士に向けるように故意にさまざまの策動をしたり、博士夫人が痴情ちじょう関係から加害でもしたかのように仕むけました。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
元々痴情ちじょうの家出ならともかく、亭主と喧嘩して飛びだす、そういう場合は別で、自分はさる娘と十日あまりも恋愛旅行をしたことがあるが娘は身をまかせなかった
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
衣服に非ざることもまた知れり、衣服のかえりみるに足らざることもまた知れり、常識なき痴情ちじょうおぼれたりというなかれ、妾が良人の深厚しんこうなる愛は、かつて少しも衰えざりし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
屋内おくないはべつに取乱とりみだされず、犯人はんにんなにかを物色ぶっしょくしたという形跡けいせきもないから、盗賊とうぞく所為しょいではないらしく、したがつて殺人さつじん動機どうきは、怨恨えんこん痴情ちじょうなどだろうという推定すいていがついたが、さて現場げんばでは
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
前車ぜんしゃ覆轍ふくてつ以てそれぞれ身の用心ともなしたまはばこの一篇の『矢筈草』あにいたずらに男女の痴情ちじょうを種とする売文とのみさげすむを得んや。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
痴情ちじょううらみか何にかでお由を殺した最初の犯人が、なお飽き足らずに屍体を運ぶ二人の後を附け、其処で再び残忍な行為を犯したとも思えるし、或いは空地に棄てられた後お由は偶然に蘇生そせいして
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
痴情ちじょうのためにその身を亡し親兄弟に歎をかけ友達の名をはずかしめたる事時人じじんの知るところなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さながら山吹の花の実もなき色香を誇るに等しい放蕩ほうとうの生涯からは空しい痴情ちじょうの夢の名残はあっても、今にして初めて知る、老年の慰藉なぐさみとなるべき子孫のない身一ツのさびしさ果敢はかなさ。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)