痙攣的けいれんてき)” の例文
ジャン・ヴァルジャンの首筋に向かって痙攣的けいれんてきに手をあげるたびごとに、その手は非常な重さに圧せられるように再び下にたれた。
あの震える手——メントーニが宮殿の中へ入りかけた時にふとかの見知らぬ人の手の上に落ちたあの手——を痙攣的けいれんてきに握りしめたことに
湯にむせ返って、看視人たちにしっかり抑えつけられた手足を痙攣的けいれんてきにもがきながら、あえぎ喘ぎ、何やら取留めのないことをわめき立てるのだった。
そしてまた強い痙攣けいれんするやうな身顫みぶるひをした。彼のすぐ傍にゐたので私は、憤怒、または絶望の痙攣的けいれんてきな顫へが、彼の身體を駈けめぐるのを感じた。
笑いの現象を生理的に見ると、ある神経の刺激によって腹部のある筋肉が痙攣的けいれんてきに収縮して肺の中の空気が週期的に断続して呼び出されるという事である。
笑い (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そしてうつぶしになったまま痙攣的けいれんてきに激しく泣き出した。倉地がその泣き声にちょっとためらって立ったまま見ている間に、葉子は心の中で叫びに叫んだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼女はちらと追窮するやうな視線をそれに向け、そのまゝ俯向うつむいて編物の針を痙攣的けいれんてきに動かし初めた……
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
お沢 ええ! 口惜くやしい。(ほとん痙攣的けいれんてきちょうと鉄槌を上げて、おもて斜めにきば白く、思わず神職を凝視す。)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吾輩が金田邸へ行くのは、招待こそ受けないが、決してかつお切身きりみをちょろまかしたり、眼鼻が顔の中心に痙攣的けいれんてきに密着しているちん君などと密談するためではない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唯円 (痙攣的けいれんてきにかえでを抱く)永久にあなたを愛します。あなたは私のいのちです。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
痙攣的けいれんてきに目たたきをしている、蒼ざめた一つの顔を硝子の向うに浮べながら……
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そればかりでなく、痙攣的けいれんてきな、ピクピクとふるえるような、意味の分らない微笑が彼の面上に押し出されて、顔の色が一旦蒼白そうはくに変り、やがて見る間に、かあッと上気したようにあかくなった。
蜂は間もなく翅がかなくなった。それから脚には痲痺まひが起った。最後に長いくちばし痙攣的けいれんてきに二三度くうを突いた。それが悲劇の終局であった。人間の死と変りない、刻薄な悲劇の終局であった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その中に痙攣的けいれんてきの微動がダン/\遠退いて
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして彼の唇が痙攣的けいれんてきに震え始めた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
脈管を痙攣的けいれんてきにめぐつてゐるのだ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
頭は互いにぶっつかり合い、鉄の刑具は音を立て、ひとみ獰猛どうもうな色に燃え、手は痙攣的けいれんてきに握りしめられ、あるいは死人のようにだらりと開いていた。
うとましい音が彼れの腹にこたえて、馬は声も立てずに前膝をついて横倒しにどうと倒れた。痙攣的けいれんてきに後脚でるようなまねをして、潤みを持った眼は可憐かれんにも何かを見詰めていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし流れて行く人の表情が、まるで平和ではほとんど神話か比喩ひゆになってしまう。痙攣的けいれんてき苦悶くもんはもとより、全幅の精神をうちわすが、全然色気いろけのない平気な顔では人情が写らない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんなことが世にも恐ろしいえ聲と痙攣的けいれんてきな突進との眞只中に行はれたのである。それからロチスター氏は見てゐる人々の方に振り向いた。彼は苦々にが/\しげな、而も寂しげな微笑を浮べて人々を見た。
時々彼女は目をさましかかってるように大きなため息をもらしては、ほとんど痙攣的けいれんてきに人形を腕に抱きしめた。寝床のそばにはただ片方の木靴きぐつがあった。
と突然彼は痙攣的けいれんてきに身を震わし、その口はコゼットの衣裳に吸い着いて、それにくちづけをした。彼がなお生きてることを示すものはただそれだけだった。
なお昔のとおり快活で激烈ではあったが、その快活さも悲しみと怒りを含んでるかのように痙攣的けいれんてき峻酷しゅんこくさを帯び、その激烈さも常に一種の静かな陰鬱いんうつ銷沈しょうちんに終わった。
頑迷がんめいなる彼の思想が、瞭然りょうぜんたる義務の下に痙攣的けいれんてきなうめきを発したのも、幾度であったろう。神に対する抗争。暗い汗。多くの秘密な傷、彼ひとりだけが感ずる多くの出血。
彼女はその骨立った黄色い両手を痙攣的けいれんてきにしかと組み合わした。そして何か重いものを持ち上げようとするような深いため息が一つ彼女の胸からもれるのを、サンプリス修道女は聞いた。
ごろごろいう音がのどの奥から出、歯ががたがた震えた。そして彼女は苦悶くもんのうちに両腕を差し伸べ、痙攣的けいれんてきに両手を開き、おぼれる者のようにあたりをかき回し、それからにわかにまくらの上に倒れた。
そのうちにはなお、希望に似た何か熱烈な痙攣的けいれんてきなものがあった。