疎開そかい)” の例文
所謂いわゆる疎開そかい生活をしていたのであるが、そのあいだ私は、ほとんど家の中にばかりいて、旅行らしい旅行は、いちども、しなかった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
東京から疎開そかいしてきたまま伊東に居ついているI小児科の院長は急いで注射したあとで、「六十パーセントまでは大丈夫ですが」といった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
その宝冠は、戦争のときから今まで、ずっと、いなかに疎開そかいしてあったんだが、それをこんど、うちへ持ってかえったんだ。
灰色の巨人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
皆さんが疎開そかい村里むらざとにおいて、直接見ているものをならべくらべてみても、ほとんと昔からの変遷へんせんの、すべての段階を知ることができるのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分の悲歌の調べを予想し、心の中であれこれと思いめぐらしてさえいたのであった。国宝級の仏像の疎開そかいは久しい以前から識者の間に要望されていた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
家族たちはまだ疎開そかい先にくぎづけのままだった。東京のこの家には、家政婦の老婆が一人仕えているだけだった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
正成以下の男どもはすべて“砦入とりでいり”して赤坂の陣地へうつり、妻の久子は女子供のすべてを抱え、ここからはるか山奥の千早村ちはやむらへ一時疎開そかいせよといわれて、この朝
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一けんいえへ、戦時中せんじちゅうに、疎開そかいしてきた、家族かぞくがありました。からだのよわそうなおとこが、よく二かいまどから、ぼんやりと、彼方かなたやまをながめて、なにかかんがえていました。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
数日経って、博雄疎開そかいの日になる。世田谷の奥から、巣鴨すがもの焼けあとへ立ちもどり、既に土中から掘り出した例の荷物を妻と共に携えて、茫々ぼうぼうたる焼けあとの学校あとに集まる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
先妻は、白痴の女児ひとりを残して、肺炎で死に、それから彼は、東京の家を売り、埼玉県の友人の家に疎開そかいし、疎開中に、いまの細君をものにして結婚した。
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
百余年以前には、村の戸数こすう上下じょうげをあわせて百六、七十、まだその以外にも同じ火災のあとで、利根川とねがわの川口に近い新田場しんでんばへ、疎開そかいさせた家が数十戸もあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は当時(昭和二十三年)伊東に疎開そかいしたまま、すでに六七年ちかい年月を過していた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
遠くに霞んでいる山の方へゆけば、たくさんな人民が疎開そかいしているにちがいないとは考えるものの——さて、かの女の性格では、それまでにして、生命いのちの無事をはかるのも、いやだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年しょうねんは、それからまもなく、お祖父じいさん、お祖母ばあさんのすんでいられる田舎いなかへ、疎開そかいしました。このふるいおうちで、おとうさんが子供こどものとき、ほんんだり、いたりなさったのだろう。
おかまの唄 (新字新仮名) / 小川未明(著)
市街の到るところに広大な防火空地帯を設けるために、大規模な家屋破壊がおこなわれ、それらの家屋の居住者はもとより、広く都民の人口疎開そかいが実施せられ、国民学校児童の集団疎開も決行せられた。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
早くも広島辺のおいしいもののたくさんある土地へ娘と一緒に疎開そかいし、疎開した直後に私は母から絵葉書の短いたよりをもらったが、当時の私の生活は苦しく
メリイクリスマス (新字新仮名) / 太宰治(著)
ことについ最近、東京から疎開そかいして来たばかりの若い娘さんの眼には、もうとても我慢の出来ない地獄絵のように見えるかも知れない。しかし、御心配無用なんだ。
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あの有名な社会思想家の小鹿五郎様がその疎開そかい先のA市からおいでになって、何やら新しい思想に就いて講演をなさる、というご予定でございましたそうで、ところが運わるく
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
所謂いわゆる疎開そかい生活をして、そうして昨年の十一月に、また東京へ舞い戻って来て、久し振りで東京のさまざまの知人たちと旧交をあたためる事を得たわけであるが、細田氏の突然の来訪は
女神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
早く細君に死なれて、いまは年頃の娘さんと二人だけの家庭の様子で、その娘さんも一緒に東京からこの健康道場ちかくの山家やまが疎開そかいして来ていて、時々このさびしき父を見舞いに来る。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「うん、召集と同時に女房と子供は、こっちの家へ疎開そかいさせて置いた。なあに、知らせるに及ばんさ。外国土産みやげでもたくさんあるんならいいけど、どうもねえ、何もありやしないんだ。」
(新字新仮名) / 太宰治(著)
多くの人々がその家族を遠い田舎いなかに、いち早く疎開そかいさせているのを、うらやましく思いながら、私は金が無いのと、もう一つは気不精から、いつまでも東京の三鷹で愚図々々ぐずぐずしているうちに
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とても親子四人(その頃はマサ子の他に、長男の義太郎も生れていました)その半壊の家に住みつづける事が出来なくなりましたので、私と二人の子供は、私の里の青森市へ疎開そかいする事になり
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
このお隣りの畳屋にも東京から疎開そかいして来ている家族がおりますけれども、そこの細君がこないだうちへやって来て、うちの細君と論戦しているのを私は陰で聞いて、いや、面白かったですよ。
やんぬる哉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
竹さんのお父さんはいまこっちへ疎開そかいして来ているんだって。そうして竹さんのお父さんから、こないだ竹さんに話があって、竹さんは二晩も三晩も泣いてたわ。お嫁に行くのは、いやだって。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)