畳紙たとう)” の例文
旧字:疊紙
畳紙たとうの包を取りそろえて衣裳行李いしょうごうりに入れ、それと、かつらの箱と、あの時のかさとを自動車に積んで出掛けたあと、折よく二人きりになったので
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
畳紙たとうをひろげて二つに折り、それから刀を取って膝の上に置き、やおらさやはずしてしまって、その程よきところを畳紙に持添えて構えたのが
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて、主人は手文庫の中から、畳紙たとうに包んだ錦の袋を出し、その中を探って、薄黒い梅干ほどの丸薬がんやくを取出しました。
畳紙たとうをあけてみると、小袖ひと重ね、綿入の羽折、肌着、帯、足袋などがはいっていた。高価な物ではないが温たかそうな、心のこもった品である。
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
嫂はこう云って小さい袋からくしやなにか這入はいっている更紗さらさ畳紙たとうを出し始めた。彼女は後向うしろむきになって蝋燭を一つ占領して鏡台に向いつつ何かやっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
裏へ行って手を洗って戻ってくると、かしらは汚点ひとつない、まっさらの日の丸の旗を畳紙たとうからだして綱に結びつけ、手下といっしょにえッえッとひきあげた。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たけの文庫にはういう物が入っているか見たいナ成程たまかな女だ、一昨年おとゝしつかわした手拭てぬぐいがチャンとしてあるな、女という者は小切こぎれの端でもチャンと畳紙たとうへいれて置く位でなければいかん
小僧さん達着る物のほころびでも切れたなら私の家へ持つておいで、御家は御多人数ごたにんずお内儀さんの針もつていらつしやる暇はあるまじ、私は常住仕事畳紙たとうと首つ引の身なればほんの一針造作は無い
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小坂部は懐中から畳紙たとうをとり出して、兼好の前にひろげた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
顔があらかた出来上ったところで、幸子は「小槌屋こづちや呉服店」と記してある畳紙たとうひもを解きかけていたが、ふと思いついて
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
主膳は、仰向いて、その手を加減しながら自分の懐中ふところへ入れて畳紙たとうを取り出して面に当てました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
叔母は先刻さっき火熨斗ひのしをかけた紅絹もみきれ鄭寧ていねいに重ねて、濃い渋を引いた畳紙たとうの中へしまい出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何か気がかりで、じっとして居られませんでした。そっと元の神棚のところへ行ってみると——、神棚には、ツイ今しがたお杉に取らせて、自分の部屋へ置いて来たばかりの畳紙たとうに入った絵図面が供えてあるではございませんか」
幸子はスーツケースから幾組もの畳紙たとうを出させて、それらを二つの寝台の上へ一杯にひろげさせ、雪子の着換えを手伝ってやってから、自分と妙子とが着換えをしたが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
けれども紙で拭いたその血を行燈の光で見るとおびただしいもので、黒く固まってドロドロして、しかもそれが一帖の畳紙たとう打通ぶっとおしてみるほどに押出して、まだ止まらないのです。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
引っかけてみた衣裳いしょうが気に入らないで、長襦袢ながじゅばんの上をぱっと脱ぎすてて別な畳紙たとうを解きかけていたが、ひとしきりんでいたピアノの音が再び階下から聞えて来たのに心付くと
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
東京から持って来た衣裳鞄いしょうかばんを開けて、一番底の方に入れてあった畳紙たとうを出してひもを解いたが、何と、中から現れたのは、ちゃんとそのつもりで用意して来た花見の衣裳なのであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)