甲斐性かいしょう)” の例文
年をとって、こうして下女奉公をするのも、いってみればお艶どのの男が甲斐性かいしょうのない証拠。な、おさよどのそうではござらぬかな
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「へへッ、肺病のばちあたりめが、結構ないただきものを残して捨ててけつかる。十等めし一本を食い余すなんて、なんという甲斐性かいしょうなしだ!」
(新字新仮名) / 島木健作(著)
甲斐性かいしょうと信念との不足から、人々は売ったり買ったりし、自分たちの生涯を農奴のようについやしつつ、現今の位置にとどまっているのだ——
あなたがたみたいに食べるものもなくなっちゃ私は半日だってやり切れないわ。大の男が五人も寄ってる癖に全くあなたがたは甲斐性かいしょうなしだわ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
甲斐性かいしょうがなさすぎるではないか。二人とも小気な人間なのだ。しかも結局は女の側にだけ最後の重石おもしがかかってくるのだ。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
僕が何ぼ甲斐性かいしょうなしでも、まさかこいさんにお金の不自由さすようなことせえしませんよってに、職業婦人みたいなことはせんと置いてほしいんです。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
俸給ほうきゅうを多くとり、賃銀をたくさんとるような、いわゆる甲斐性かいしょうのある、偉い人を作るのが目的ではないのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
おやじというのは、お袋とは違って、人のよさそうな、その代り甲斐性かいしょうのなさそうな、いつもふところ手をして遊んでいればいいというような手合いらしい。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
昨日きのうは折目も正しかったが、露にしおれて甲斐性かいしょうが無さそう、高い処で投首なげくびして、いた草臥くたびれたさまが見えた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いやいや、勝は一人で行こう。それくらいの甲斐性かいしょうがなければ、自分の目的をげられませんもの」
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
「おふざけでない。やっとこ喰べるがせきの山の饅頭売りのくせにしてさ。こんな甲斐性かいしょうなしの亭主ってあるかしら。ちッ、薄野呂うすのろの、おんぼろ宿六、勝手におしッ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれに甲斐性かいしょうがなくッて申し訳がねえ、もうちっとだから辛抱して呉んねえ、……だが旦那、父だって人間だ、一寸じゃねえかもしれねえ、五分ぐれえかもしれねえが
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それが少女の母親に言わせると「甲斐性かいしょうなし」で、母親も赤羽橋の煙草工場に働きに行っていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「それがさ、どうも気が進まないよ」イスラエルのお町、気がなさそうに、「せっかくここまで仕上げたんじゃアないか。それを今さらおすがりしては、甲斐性かいしょうがないというものだよ」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もとは仲町なかちょうの羽織芸者で、吉兵衛と好きあって一緒になった仲だが、なんにしても吉兵衛の甲斐性かいしょうないのと陰気くさいのにすっかり愛想あいそをつかし、急にむかしの生活が恋しくなってきた。
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あなたも、至極の甲斐性かいしょうなしと云うわけではないが、そんな大事の場所へ行ける器量ではない。こうしてお目にかかるのも、御縁ごえんだからもし時間がゆるせば、私の家に三七日逗留とうりゅうしたらどうか。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
……どうか悪くお取りになりませんようにね……どうもわたしはこんなでいながら甲斐性かいしょうがございませんで……
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
なんぼ相手が甲斐性かいしょうなしだからと云って、そう云うことも有り得るであろうし、又許せもするが、まさかこいさんが、あの青年とそんな間柄になるであろうとは。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
するのは、亭主にそれだけの甲斐性かいしょうがなかったからだし、その娘にしたって、恨むならおふくろを
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つい、手前勝手で、お前さんを私が処へ引張っておいて、こんなに甲斐性かいしょうがないんだものね。あの時お雪さんの方へ行っておいでなら、またこんなことにならなかったかも知れないものを。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へえ、なんとかできるの。甲斐性かいしょうがあるならやってよ。」
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
啓ちゃんのような甲斐性かいしょうなしに連れ添うのには、もしもの時に自分が夫を食べさせる用意が必要だから、と云うのだけれども、奥畑はあの通り何不足ない若旦那わかだんなの身分で
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あたしさっきから拝見しているんだけれど、おしのさんはきりっとしてらっしゃるわ、たとえおんば日傘で育っても、おしのさんならそのくらいの甲斐性かいしょうはきっとあると思うわ」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
栄子は景気の悪い日が半月も続くことを嘆き、これは世間の男どもに甲斐性かいしょうがないためであるとののしり、こうみえてもあたしは江戸っ子であると、山形か福島あたりのなまりで云った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
尤も彼女は老い先の短かい体であるから慾張つたところで仕方がないが、甲斐性かいしょうのない庄造が此の先どうしてしのいで行くつもりか、それを考へると安心して死んで行けないのであつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
栄子は景気の悪い日が半月も続くことを嘆き、これは世間の男どもに甲斐性かいしょうがないためであるとののしり、こうみえてもあたしは江戸っ子であると、山形か福島あたりのなまりで云った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もっとも彼女は老い先の短かい体であるから慾張つたところで仕方がないが、甲斐性かいしょうのない庄造が此の先どうしてしのいで行くつもりか、それを考へると安心して死んで行けないのであつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おぬしはまだやっと十七でねえか、どっちが身を売るとなりゃ、済まぬ言分だが姉さんの行くが順当だ、——こんな時おらにもっと甲斐性かいしょうさえありゃ、なんとかして切抜けるだに」
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もっとも彼女は老い先の短かい体であるから慾張よくばったところで仕方がないが、甲斐性かいしょうのない庄造がこの先どうしてしのいで行くつもりか、それを考えると安心して死んで行けないのであった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おれに甲斐性かいしょうがあって、もっと早くお光といっしょになっていたらこんなまちげえも起こらなかったかもしれない、おらあ頭がこんがらがって、いまはなにを考えることもできないが
源蔵ヶ原 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかしこいさんは若旦那とは段違いに賢いお嬢さんで、料簡りょうけんもシッカリしてい、女に似げない技能を身に付けておられるのだから、若旦那のような甲斐性かいしょうなしでは物足りなくなったのかも知れないし
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みんなおれの甲斐性かいしょうなしのためだ、それだけだっておれは済まないと思ってるんだ
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そんなことがなんだ、それが悪いんなら罪の半分はおれにある、おれに甲斐性かいしょうがあればおめえにそんな悲しい思いをさせずに済んだんだ、おれあおめえのほかに嫁なんぞ貰おうとは思わねえ」
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
加代はふつつか者でございますから、母上さまのお気に召すようには甲斐性かいしょうもございませぬ、けれども自分ではできるかぎりをおつとめ申しているつもりでございます、……からだが弱いためお子を
日本婦道記:梅咲きぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「親が甲斐性かいしょうなしで、子だくさんで、それも男のきょうだいはみな、ぐうたらべえ、姉さんとあたしと、下にいま十七になる妹があるんだけれど、この女きょうだい三人だけが苦労してきたし、これからも一生苦労しなければならないんです」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)