狸穴まみあな)” の例文
安達君は心気とみに回復した。外へ出たら、秋の空が高かった。日本橋から麻布の狸穴まみあなまで、電車の中も佳子さんのことを思い続けた。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
蟹穴かにあな狸穴まみあな狐穴きつねあな、穴さがしとくるとあっしがまた自慢なんだからね。ぱんぱんとたちまちかぎつけてめえりますから、お待ちなさいよ……
すなわち、牛蒡丸抜安ぬきやすの細身の一刀、これをぶら下げた図というものは、尻尾しっぽじゃないが、十番越に狸穴まみあなから狸に化かされた同様な形です。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狸穴まみあなのとある家、生垣の前に、土地の岡つ引が待つて居りました。狸穴に縁を持たせて鼓の源吉といふポンポンした四十男。
これは狸穴まみあなの支社の客間で見たものと同じだから、一対いっついを二つに分けたものだろうと思った。そのほかには長い幕の上に、おおきな額がかかっていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……といえば麻布の狸穴まみあなにいるものとばかり此方こっちは思っている。——麻布にいるものがそんな目に逢うわけはない。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
この狸穴まみあなに住みついたのでございますが、おいおい眷属が増えまして、只今、三百三十三狸になっております
やはりあの狸穴まみあなの先生が云った事は適中あたっていたので、母は何か人に、つけ狙われるような憶えがありましたために、自分達の居所をできるだけ隠そうとして
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私が地下室にたとえてみた自分の部屋へやの障子へは、町の響きが遠く伝わって来た。私はそれを植木坂の上のほうにも、浅い谷一つ隔てた狸穴まみあなの坂のほうにも聞きつけた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
緊迫した石垣の冷たさがえてとおった。暗い狸穴まみあなの街路は静な登り坂になっていて、ひびき返る靴音だけ聞きつつ梶は、先日から驚かされた頂点は今夜だったと思った。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
麻布あざぶ狸穴まみあなまで行かなくちゃならない。」
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
狸穴まみあなからだから、途中にかかるのよ」
二人いるとき (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
つづいて狸穴まみあなを一席、きめた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「君も狸ですかって、君が訊いた。僕は分らなかった。狸穴まみあなに住んでいるんですかって、君が訊き直した。成程、これは洒落だと思った」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
綾子夫人は、待てしばし、過日いつか狸穴まみあなほとりにて在原夫人にかかりし事あり。その時かれは病者を見棄てて大きに面目を失いぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へエ、目のさめるやうな娘でしたよ。——身裝みなりは惡かつたが、あんな綺麗なのは、神明にも狸穴まみあなにもありません」
東京から直方こちらへ来たわけは、母が卜筮うらないを立てたんだそうです。「狸穴まみあなの先生はよく適中あたる」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とちの木の並んだ狸穴まみあなの通りを歩いたとき、夕暮のせまった街に人影はなかった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「ヘエ、目のさめるような娘でしたよ。——身装みなりは悪かったが、あんな綺麗なのは、神明にも狸穴まみあなにもありません」
狸穴まみあなの狸じゃないが、一本松の幹の中へ入った気で居て、それに供えるという処から、入りしなにびんに詰めた白いのを、鼻頭はなさきで掻分けたつもりで居る。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「兄さんは狸穴まみあなにいらっしゃるんじゃありませんか?」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
狸穴まみあなに落合って暮すうち、福島と岩根は折合をつけた。藤助という鋳掛いかけの心得のある下男にタガネを拵えさせ、未刻印小判にタガネを入れて、三千両を
「あれだ、聞いたか——池の端茅町の声でないよ、麻布狸穴まみあなおんだ。ああ、返事と一所に、鶯を聞きたいなあ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狸穴まみあなに落合つて暮すうち、福島と岩根は折合をつけた。藤助といふ鑄掛いかけの心得のある下男にタガネを拵へさせ、未刻印小判にタガネを入れて、三千兩を
かくて狸穴まみあなほとりなる狭隘路せまきみち行懸ゆきかかれば、馬車の前途ゆくてに当って往来の中央まなかに、大の字に寝たる屑屋くずやあり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんな事を言ひ乍ら、三人は芝山内から麻布あざぶ狸穴まみあなへ、ゆら/\ゆらぐ、街の陽炎かげろふを泳ぐやうに辿つて居たのです。
○今朝麻布狸穴まみあなにて、疾病しっぺい、飢餓、交々こもごも起り、往来に卒倒して死に垂々なんなんとせる屑屋あり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「その日は丁度、親分と一緒に狸穴まみあなの菊を見に行つて、麻布で一杯呑んで、夜遲くなつてから、フラフラと神田へ戻つたぢやありませんか。良い秋日和で」
私は、当日、小作しょうさく挿画さしえのために、場所の実写をあつらえるのに同行して、麻布我善坊あざぶがぜんぼうから、狸穴まみあな辺——化けるのかと、すぐまたおなかまから苦情が出そうである。が、はばかりながらそうではない。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ガラッ八は背筋をくすぐられるような心持で振り返りました。菊日和の狸穴まみあなから、榎坂えのきざかへ抜けようというところを、後ろからこうなまめかしく呼止められたのです。
就いては場所——場所は麻布あざぶ——狸穴まみあなではなく——二の橋あたり、十番に近い洒落しゃれた処ゆえ、お取次をする前に、様子を見ようと、この不精ものが、一度その辺へ出向いた、とお思い下さい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ガラツ八は脊筋をくすぐられるやうな心持で振り返りました。菊日和の狸穴まみあなから、榎坂えのきざかへ拔けようと言ふところを、後ろから斯うなまめかしく呼止められたのです。
狸穴まみあなへ菊でも見に行かうか、それとも、はぎ寺にしようかと、ムラムラと謀叛氣むほんぎが起きてゐるところへ
わけは大ありで——先刻狸穴まみあなの歸り、後から聲を掛ける者があるぢやありませんか。振り返つて見ると凄いほど美い女で——無理にあつしを茶店へ引入れて、——何を
跡部満十郎にしては、事件の当夜、夜中に飛出して狸穴まみあなへ行き、岩根半蔵の家から槍を持出して、怪し火の矢を飛ばし、藤助に合図した上、手筈の通りに運ぶのは何でもなかったのです。
「平次、狸穴まみあなまで行ってみないか、竹光たけみつで武家が一人殺されたんだが——」
「あの妹のお袖は善人さ。女も美しい氣立ても申分はないやうだ。が、兄のことまではわかるものか。現に丁度あの頃、狸穴まみあなの骨董屋の手代で、五十兩剽盜に取られたといふ訴へが出てゐる」
「あの妹のお袖は善人さ。女も美しい気立ても申分はないようだ。が、兄のことまではわかるものか。現にちょうどあの頃、狸穴まみあなの骨董屋の手代で、五十両剽盗ひょうとうに取られたという訴えが出ている」