狂言きょうげん)” の例文
徳川時代の狂言きょうげん作者は、案外ずるく頭が働いて、観客の意識の底に潜在せんざいしている微妙びみょうな心理にびることがたくみであったのかも知れない。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、としわかいし、げい達者たっしゃであるところから、作者さくしゃ中村重助なかむらじゅうすけしきりにかたれて、なに目先めさきかわった狂言きょうげんを、させてやりたいとのこころであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたくしほどの芸人げいにんが、手前みそに狂言きょうげん功能こうのうをならべたり、一座いちざの役者のちょうちん持ちをして、自分からひんを下げるようなことはいたしませぬ。
「どうも古くさい狂言きょうげんだ。だが、古いものは古いほど安心して使える、といわれるが、なるほどもっともな話だなあ」
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
時には高台の空き地に小屋をたてて、踊ったり、跳ねたり、いたり、うたったり、芝居や狂言きょうげん真似まねまでもした。
その証拠は彼が私と二人で、ある日どこかの芝居でやっている神風連しんぷうれん狂言きょうげんを見に行った時の話です。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「へえ、そんな人騒ひとさわがせなこともときどきやりますが、あれあどうも少し狂言きょうげんらしいんで……」
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
産んだ事にして、園山若狭様の跡取りにしたといった筋書は狂言きょうげんになりますぜ
「内藤さん、あれは狂言きょうげんでございますのよ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
欝金うこん風呂敷ふろしきつつんで、ひざうえしっかかかえたのは、亭主ていしゅ松江しょうこう今度こんど森田屋もりたやのおせんの狂言きょうげん上演じょうえんするについて、春信はるのぶいえ日参にっさんしてりて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
このときはちょうど『下剤げざいをかけた病人』という芝居しばいをやっている最中さいちゅうでツールーズでははじめての狂言きょうげんなので、見物もいっしょうけんめいになっていた。
それに『名高いヴィタリス親方の一座いちざ』の役者では、狂言きょうげん芸題げいだいをいろいろにかえてゆく自由がきかなかった。
このあき狂言きょうげんに、良人おっとえらんだ「おせん」の芝居しばいを、重助じゅうすけさんがきおろすという。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)