煩雑はんざつ)” の例文
旧字:煩雜
そうしてこの仕事のみならず出版に関する煩雑はんざつな仕事の一切を担任する式場隆三郎君の理解と努力とに深き感謝を送りたいと思います。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それまでは、各〻理念にもまどってみるが、智も働かしてみるが、死という点に到ると、もう途中の妄智もうち煩雑はんざつな是非はもたない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近所隣りや親類同士の附き合いがうるさかったりするので、そのめに余計な入費も懸るし、簡単に済ませることが煩雑はんざつになり、窮屈になるし
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
やがて象形文字の直観的煩雑はんざつ性を克服し、半ばは音表文字の作用をも勤めつつ、直接に意味を現わす形象として、異常な発達を示して来たのである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
たとえば、絵画については輪廓りんかく本位の線画であること、色彩が濃厚でないこと、構図の煩雑はんざつでないことなどが「いき」の表現に適合する形式上の条件となり得る。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
北方の諸政府に隷属れいぞく服従していっそう煩雑はんざつをきたした、フランスの国民的伝統への表面上の復帰。
土田の属する記録所は、役目の性質から多少は事務が煩雑はんざつになり、ときには下城が一刻もおくれることなどもあったが、吟味事件そのものにはむろんかかわりはなかった。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二の氷店こおりみせや西洋料理亭の煩雑はんざつな色彩が畸形きけいな三角の旅館と白い大鉄橋風景の右たもとに仕切られる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
かかる生活を有するが為めに私の日常生活はどれ程煩雑はんざつな葛藤から救われているか知れない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
庄造は煩雑はんざつなことが嫌いなので、妻もめとらず時どき訪れて来る俳友の他には、これと云って親しく交わる人もなく、一人一室に籠居ろうきょして句作をするのを何よりの楽しみにしていた。
狸と俳人 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それで到頭たう/\落城らくじやうしてしまつたのです、滅亡めつばういては三つの原因げんいんが有るので、(一)は印刷費いんさつひ負債ふさい、(二)は編輯へんしうと会計との事務じむ煩雑はんざつつて来て、修学しうがく片手業かたてまあまるのと
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
現今の世の中では職業の数は煩雑はんざつになっている。私はかつて大学に職業学という講座を設けてはどうかということを考えた事がある。建議しやしませぬが、ただ考えたことがあるのです。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少し煩雑はんざつすぎると思いますから、今度の事件の様々の不思議の中から、最も重大な、また異様な三つの出来事を拾い出して、僕の仮説がどんなものであるかをお察し願うことにしますが
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところがこういう煩雑はんざつなるき料を支給する必要もなく、さっさと家内の者限りで一日の中にも千二千把、機械を運転して籾落しが済むようになると、すなわち小農場は小さいながらに
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
近所の交番へうったえ出ることでしたが、警官が簡単に納得して呉れるとも思われないし、それから先、警察署、警視庁、憲兵隊と階級的に軍事当局迄、通報されて行くであろう煩雑はんざつさを考えると
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
夫ワグナーを煩雑はんざつ我慢がまんの出来ない生活に押し込めようとしたのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
海陸の通路や城下の旅籠はたご、寺院にいたるまで、旅客の往来に、きびしい制度と、煩雑はんざつな手続きを法令化したので、富山を中心とする経済的なうごきは、冬と共に、まったく停止してしまった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしながら、「いき」な建築にあってはこれら二元性の主張はもとより煩雑はんざつに陥ってはならない。なお一般に瀟洒しょうしゃを要求する点において、しばしば「いき」な模様と同様の性質を示している。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
十八世紀の煩雑はんざつ軽薄な言葉でいわゆる半都会人半田舎者というあの階級、おやしきから百姓家の方までひろがっていって平民どもの取って置きのたとえ言葉となってるものでいわゆる半平民半市民
亀甲きっこう模様は三対の平行線の組合せとして六角形を示しているが、「いき」であるには煩雑はんざつに過ぎる。万字まんじは垂直線と水平線との結合した十字形の先端が直角状に屈折しているので複雑な感を与える。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)