じん)” の例文
挿頭かざしの台はじん紫檀したんの最上品が用いられ、飾りの金属も持ち色をいろいろに使い分けてある上品な、そして派手はでなものであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
あの黒方くろほうと云う薫物たきもの、———じんと、丁子ちょうじと、甲香こうこうと、白檀びゃくだんと、麝香じゃこうとをり合わせて作った香の匂にそっくりなのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昔はじんをはじめ各種の香木を材として、仏像を彫ったり、念珠を刻んだりしましたから、古い有名な仏像の中には、どうかすると、非常に高貴な香木があるわけです。
けれどもその徳隠れなく、或る貴女がこの僧に深く帰依していたが、その貴女より、じんの念珠を贈られた。宗源もこれを愛して、この念珠で日夜念仏していたが誰れもこのことを知らなかった。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
じんでは無いが、外国の稀品きひんと聞かるる甘いものであった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
じんの木、紫檀したん、銀、黄金などのすぐれた工匠を多く家に置いている人であったから、その人々はわれ劣らじと製作に励んでいた。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その窓の前のたなの上に青磁の香炉こうろが据えてあったので、そこにじんのようなものがひそかにゆらしてあったのかも知れない。
明石は紫の女王にょおうなどが対へ帰ったあとの静かな夕方に、姫君のそばへ来て、文書のはいったじんの木箱を見せ、入道のことを語るのであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
目に立つ巻き絵物などは避けたじんの木製の二段のたななどを手ぎわよく配置してあるのは皆大和守やまとのかみのしたことであった。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
院の御前にはじん懸盤かけばんが四つ、優美な杯の台などがささげられた。朱雀すざく院がまだ御全快あそばさないので、この御宴席で専門の音楽者は呼ばれなかった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
じんの木の箱に瑠璃るりあし付きのはちを二つ置いて、薫香はやや大きく粒に丸めて入れてあった。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この巻き物は特にじんの木の華足げそくつくえに置いて、仏像を安置した帳台の中に飾ってあった。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
源氏は侍従へ唐本のりっぱなのをじんの木の箱に入れたものへ高麗こま笛を添えて贈った。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
じんの木の透かし彫りの箱に入れて、同じ木で作った上飾りを付けた新味のある御贈り物であった。御挨拶あいさつはただお言葉だけで院の御所への勤務もする左近の中将がお使いをしたのである。
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
御前へ女二にょにみやのほうから粉熟ふずくが奉られた。じんの木の折敷おしきが四つ、紫檀したん高坏たかつき、藤色の村濃むらご打敷うちしきには同じ花の折り枝が刺繍ぬいで出してあった。銀の陽器ようき瑠璃るりさかずき瓶子へいし紺瑠璃こんるりであった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)