歔欷すゝりなき)” の例文
かしましき田畑たはた人聲ひとごゑと(あいちやんのつてる)へんじました、——遠方ゑんぱうきこゆる家畜かちくうなごゑは、海龜うみがめ重々おも/\しき歔欷すゝりなきであつたのです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
静子は夫の問いに答えようとしては意志の力では押える事の出来ない、泉のように湧いて来る歔欷すゝりなきの声にさえぎられて、容易に声が出ないのだった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
もんそとにはおつぎが與吉よきちれて歔欷すゝりなきしてる。與吉よきちはおつぎのくのを自分じぶんこゑはなつ。おつぎはこゑれぬやうにたもとでそれをおほうてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
男は暗の中にも、遂ぞ無い事なので吃驚びつくりして、目を圓くもしてゐたが、やがてお定は忍び音で歔欷すゝりなきし始めた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼女は一層深く彼の胸に顏を埋め、獅噛しがみつくやうにして肩で息をし乍らなほ暫らく歔欷すゝりなきをつゞけた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
さてはあの怪しい沈黙の秒刻に譬へやうもない霊魂の歔欷すゝりなきをかりそめにも聴き逃さなかつたヴエルレエヌの純一な気分も恰度デリケエトなかういふ心持では無かつたか。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
死骸を棺にをさめる時、部屋の雰囲気ふんゐきが又一層切実になつて来た。歔欷すゝりなきの声が起つた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
三人は時に聞き取れぬやうな低声こごゑになり、時に荒々しい喧嘩声になり、又時にはお信さんの歔欷すゝりなきの声が交つたりしたが、私の聞き得たところによると、お信さんは、今度森田が上海シヤンハイ
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
慟哭と嗚咽と歔欷すゝりなきの中へ、平次と八五郎は分けて入りました。町人にしては贅澤過ぎると思ふほどの絹夜具の中に、横たはつて居るのは、河内屋の秘藏孫、喜太郎少年の痛々しい姿です。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
蜥蜴とかげ鉛筆えんぴつきしらすおと壓潰おしつぶされて窒息ちつそくしたぶた不幸ふかう海龜うみがめえざる歔欷すゝりなきとがゴタ/\に其處そこいらの空中くうちゆううかんでえました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私は直ぐ又俯いて、下脣を噛締めたが、それでも歔欷すゝりなきが洩れる。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いくら努力しても歔欷すゝりなきを制しきれなかつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
『でも、屹度きつと歔欷すゝりなきしてるのだ』とおもつたもんですから、しやなみだてはないかと、ふたゝ其兩眼そのりやうがんました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)