業病ごうびょう)” の例文
六郷川の中洲の蘆間にただ一度のちぎりから、海賊の娘と旗本の若殿との間に、業病ごうびょうの感染。悪因縁あくいんねんうらみは今も仰々子ぎょうぎょうしが語り伝えている。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「惜しい人がなくなる。これも天命だろう。それにしても、この人にこの業病ごうびょうがあろうとは。この人にこの業病があろうとは。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
曲者の体は、そのために業病ごうびょうのように腫れあがって、やぶれた傷口は柘榴ざくろの如くみ、そこから白い骨が見えるほどだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この度立ちかえりて、父の病いが業病ごうびょうなりしことを知りおどろき、ましてやその姿を由利どのに見られし悲しさは、たとえるものもこれなくそうろう
「あんた、なんか業病ごうびょうがあるんじゃない。だって指先に一向力がはいらないじゃないの」責任者のおもんというのに、光枝はたっぷり皮肉ひにくをいわれた。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いくら年を取っても一人で不自由なく歩く事のできる人間が幾人いくたりあるかと思うと、何の因果いんがでこんな業病ごうびょうかかったのかと、つくづく辛い心持が致します。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは、どの様な業病ごうびょうに死んだ者も、あるいは死刑囚さえもが、あじわったことのない大苦痛と云わねばならなかった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さて洛中らくちゅう洛外らくがいの非人乞食で大病難病をわずらふ者を集め、風呂に入れて五体をきよめ、暖衣を与へて養生をさするに、癩瘡らいそうなんどの業病ごうびょうたちまちに全快せぬはない。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「まるで業病ごうびょうかかさ持ちの女を嫁に取るみてえなもんだ、こっちはちっともいいおもいをしねえで、血の腐った子や孫ができる、そんなものはおめえまっぴらだ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
不知庵主人内田魯庵ろあんがあり、漢詩の大家で、業病ごうびょうにかかり妹の曾恵子そえこを熱愛していた義弟勇三郎がその病の特効薬だときいて、他人の尻肉をりとったりしたのち
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
すると昨年の十一月から伊之助が業病ごうびょうに取附かれまして、その足へ腫物しゅもつが出来まして、どうも痛んでこらえられないばかりでなく、放棄うっちゃって置くと漸々だん/″\腹の中まで腐れ込むと医者が申しますで
しかも、それは恐ろしい業病ごうびょうなのだ。
のぞいてみると、女のおこもだの、業病ごうびょう乞食こつじきだの、尺八を持った骸骨がいこつみたいな菰僧こもそうだの、傀儡師だの、年老いた顔に白いものを塗っている辻君だの
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床の上へ坐っているのは、業病ごうびょうも末になったのであろう。顔は崩れ、声はれて、齢さえも定かでない老人であった。
わたくし此様こん業病ごうびょうに成りましたもんだから、あれが私を介抱するので内職も出来ませんゆえ追々其の日に追われ、何もも売尽して仕方がない処から、彼が私に内証で袖乞に出る様な事に成ったので
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
刑部は、業病ごうびょうだった。もう十年余り前から、病兆きざしが出て、今では一見してそれと分る癩の相好そうごうをしている。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんという奇病——業病ごうびょう——かと金吾のれるやまいの謎をとくものは、お粂以外にはないでしょう。筑波屋に滞留中も、附近の医者にみてもらいましたが、所詮しょせん、病の名すらも分らない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぬすいちの晩、真土まつちの黒髪堂の前で日本左衛門のために思わぬおくれをとって気を失なったこと、また、それからお粂の家へ助けられて以来、ふしぎな業病ごうびょうをなやみ通しで今日に至ったまでのことを
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)