検屍けんし)” の例文
旧字:檢屍
「夜になるのを待つんだ。——幾太郎が縛られたことは、まだ黙っているがいい。検屍けんしが済んだ上でまた考えようがあるだろうよ」
「何でも怨む者さえ無ければ物ごとは円くおさまる。検屍けんしにはあのナンノをな、それから、ナニはナニして、ナンノを、ナンノを。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう検屍けんしも済んだと見えて、警察の一行は引挙ひきあげてしまい、ただ五六人の菜ッ葉服が、屍体にかじり付いて泣いている細君らしい女の姿を、いたましそうに覗き込んでいた。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
届出に依り千葉警察署より猪股いのまた警部補、刑事、医師出張検屍けんしせるに、女は左頭部に深さ骨膜に達する重傷を負ひ苦悶くもんし居り、男は咽喉部の気管を切断し絶息し居たり。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
検屍けんしが済んでしまっておりましたし、犯人の手がかりを集められるだけ集めてあったらしいのです。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かつ検屍けんしの後の湿った砂なぞを眺めた彼自身にもまさって、一層よく岸本はその水辺の悲劇の意味を読むことが出来た。その心持から、彼は言いあらわし難い恐怖を誘われた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
組屋敷へ帰ると、同心の井田十兵衛を呼んで、「むさし屋」親子の検屍けんしをしたのは誰だったかしらべさせた。そして、定廻じょうまわりの内村伊太夫だとわかると、すぐにその住居を訪ねていった。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一と通り検屍けんしが済んだのはもう亥刻よつ(午後十時)近いころ、平次は紙入と煙草入だけを、二三日借りることにして、現場を引揚げました。
万事は叔父の計らひで、検屍けんしも済み、棺も間に合ひ、通夜の僧は根津の定津院じやうしんゐんの長老を頼んで、既に番小屋の方へ登つて行つたとのこと。明日の葬式の用意は一切叔父が呑込んで居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
検屍けんしの済まないうちは、死骸を動かすわけにもいきません。平次はそう言って、妙にしょんぼりしている八五郎を振返りました。
かく検屍けんしの済むまでは、といふので、蓮太郎の身体は外套でおほふたまゝ、手を着けずに置いてあつた。思はず丑松はひざまづいて、先輩の耳の側へ口を寄せた。まだそれでも通じるかと声を掛けて見る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
八五郎と一緒に、本銀町へ飛んで行くと、土地の御用聞が二三人ウロウロしていますが、まだ検屍けんし前で、幸い何にも動かしてはありません。
それは、所轄警察署から、一応死骸を検屍けんしさして貰いいと言って、司法主任と刑事二人、警察医をれてやって来たのです。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「ちょいちょい人殺しがあるが、検屍けんしに立会ってみると、それが大抵十二支のうちの一つを、身体のどこかに彫っているんだ」
検屍けんしの役人の来るまでは、死骸に手の触れようもありません。平次は床几に腰をおろして、しばらくの暇を、こう静かに語り進むのでした。
お由良の死骸は、水道橋の橋詰に三文菓子をあきなっているお関の家にかつぎ込み、そこで検屍けんしを受けてから飯田町の家へ運ぶことになりました。
昼のうち検屍けんしに来た係り同心には、幾太郎の無実を細々と説明した上、「真実ほんとうの下手人は、今晩中に挙げてお目にかけます」
真っ直ぐにお勢の家まで行くと、路地の外は黒山の人だかりですが、幸か不幸か、まだ検屍けんしの役人は来ておりません。
相模屋の店中も、ようやく平静を取戻して、型通りの検屍けんしを済ませた上、親類や近所の衆が集まって、とむらいの仕度に、しばらくは取紛とりまぎれております。
寺方が埋葬とむらひを斷るのは、検屍けんしを受けない變死人の場合で、醫者の死亡診斷書といふものゝない時代には、これが犯罪摘發てきはつの最後の手段に用ゐられたのです。
陸尺ろくしゃく町の成瀬屋へ行ったのは、もう昼近いころ、検屍けんし万端済んでしまって、おとむらいの仕度に忙しい有様でした。
主人金右衛門の死骸は検屍けんしが済んだばかりで、二階の八畳に寝かしたまま、形ばかりの香華こうげそなえて、娘のお喜多が駆け付けた親類の者や近所の衆に応対し
まだ検屍けんし前の死骸は、夏の真昼の明るさにさらされて、長屋の奥といっても、何のおおうところもなく見えます。
娘の死骸は、検屍けんしが済んで、かんの中に納めてありますが、一度のぞいて、平次もゾッと身体をふるわせました。
つまるかつまらねエか、ちょいと行ってみて下さいよ。京屋じゃ怪我(事故)にして検屍けんしを受け、日が暮れたら、おとむらいを出すつもりでいるが、若い娘が仏様を
「大急ぎで中橋なかばしの鳴子屋へ行ってくれ。気の毒だが検屍けんしが済まないうちは、葬いを出さしちゃならねえ」
「紅屋の居候のような支配人のような弥惣やそうという男が、ゆうべ土蔵の中で変死したそうだよ。検屍けんしは今日の巳刻よつ(十時)、今から行ったら間に合わないことはあるまい」
検屍けんしも滞りなくすみましたが、下手人げしゅにんは何としても挙がりません。そのとき家の中に居たのは、殺された市太郎の外には、女主人の浪乃と、小さい娘の早苗さなえと二人きり。
そのうちに検屍けんしも済み、隣の大黒屋の主人や、日頃娘のように可愛がって貰ったお関も来ました。
現場へ行ったのはもう昼頃、野次馬は一パイにたかっておりますが、幸いまだ検屍けんし前で、殺された太助の子分の石松が、町役人と一緒にむしろを掛けた死骸を護っております。
平次とガラッ八が、寺島まで飛んで行ったのは、その日も暮れ近い頃、石原の利助の子分達がお係り同心とやって来て、検屍けんしもちょうど済んだばかりというところでした。
奥の間に寝かしたまま、検屍けんしを待っている娘お吉の死体を、平次は膝行いざり寄って一目見せて貰いました。醜かるべき絞殺死体ですが、これはまたなんという美しさでしょう。
真夜中過ぎまで何の変化もなく、検屍けんしあくる朝になったので、一応妓どもを帰そうか——とも思いましたが、もしその中に下手人が交っていると、容易ならぬ手落ちになります。
が、この有様では手の下しようもなく、その間にガラッ八の八五郎が小耳に挟んで検屍けんし前に駆けつけましたが、これとても不動明王ににらみすくめられて、むなしく引揚げる始末です。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
店と奥の境、ちょうど庭木戸を入った雨落ちのところに、番頭和助の死体が、こもを被せてありました。検屍けんしが済むまで、そこから家の中へ運び入れるわけにも行かなかったのです。
半之丞は、冷たく言い放って、妹の死体の側に、検屍けんしの済むのを待っている様子です。
検屍けんしが済んだのはあくる朝、そのうちに町内や近所の人も駆けつけ、わけても三河屋の主人甚兵衛と、掛人かかりうどの佐々波金十郎、それに、死んだ蔵人とわけても昵懇じっこんにしていた、佐野屋九助
翌日は変死人としての検屍けんしも済ませましたが、生前人付合いの悪かった音次郎には、友達も親類もなく、わずかに下谷の万両分限佐野屋正兵衛が、親身になって世話をしてくれ、やがて
検屍けんしが済むまでは、指も差させねえように、町役人に頼んで来ましたよ」
こちらから望んで検屍けんしを受けるわけはねえ、仏を路地へほうり出しておくのはよくないことだ——と申して、とうとうここへ運び入れましたが、私にはどうもに落ちないことばかりでございます
ガラッ八の八五郎の大袈裟おおげさな注進で、銭形平次が来たのはまだ検屍けんし前。
検屍けんしの手が廻らないのか、二人の死骸はむしろを掛けたまま、土地の御用聞の喜八が頑張って、一生懸命野次馬を追っ払っておりますが、まだ八州の役人も顔を見せず、江戸の御用聞の平次が来ても
「まア、入って見てくれ。検屍けんしは済んで、片付けるばかりのところだ」
平次とガラッ八が現場へ駆け付けた時はいい塩梅あんばい検屍けんしが済まないので、路地の死体もそのまま、番太の老爺おやじが立番をして、町内の野次馬が、怖い物見たさの遠巻きに、月の光にすかしております。
笹野新三郎が、平次をつれて、槙町の弥助の家へ行った時は、一応検屍けんしが済んだばかり、死体はそのままにして、多勢の中に、柴井町の友次郎、石原の利助などが、うさんな眼を光らせておりました。
平次は検屍けんしに立会った上、一と通り家の中を見せて貰いました。
型通りの仕度をととのえて検屍けんしを待っているのでした。
焼跡の護摩壇に検屍けんしの足を踏込んだのです。
検屍けんしは済みましたが、親分さん」
検屍けんしは済んだのかい、番頭さん」