根付ねつけ)” の例文
毛むくじゃらの手を懐中ふところに突込み、胸を引裂いてそのはらわたでも引ずり出したかの様、朱塗の剥げた粗末な二重印籠、根付ねつけ緒締おじめも安物揃い。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
背戸せどから廻って来たらしい、草鞋を穿いたなりで、胴乱どうらん根付ねつけ紐長ひもながにぶらりとげ、銜煙管くわえぎせるをしながら並んで立停たちどまった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の心は次第々々に其中に引き込まれて、遂に「珊瑚樹さんごじゅ根付ねつけ」迄行って全くあなたの為にとりこにされて仕舞ったのです。
木下杢太郎『唐草表紙』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お玉はそれを、町の方へ向けてなるべく明るいようにして、仔細に見ると、梨子地なしじ住吉すみよしの浜を蒔絵まきえにした四重の印籠に、おきなを出した象牙ぞうげ根付ねつけでありましたから
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
年も半蔵より三つほど上で、腰にした煙草入たばこいれの根付ねつけにまで新しい時の流行はやりを見せたような若者だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「御注文の、根付ねつけが出来ましたで、持参いたしました——遅く、御迷惑でありましょうが、楽屋より、お宿で、ゆっくりと仕上げの御覧を願いたいと存じまして——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
三人の間に、やがて日本の根付ねつけの話が出た。はじめゴーリキイは、誰かにおくられて日本の独特な美術品のニッケをもっていると云った。話してゆくと、それは根付のことだった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
悠々と蒲団の上に座って、角細工つのざいく骸骨がいこつ根付ねつけにした煙草入たばこいれを取出した。彼は煙を強く吹きながら、帳場に働くおてつの白い横顔を眺めた。そうして、低い声で頼山陽らいさんようの詩を吟じた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とある広場の古物商こぶつしやうに能の面が二つばかり並べてある。この古物商には不思議にも日本物にほんものが並べてあるので、よろひがあり、扇子があり、漆器があり、花瓶があり、根付ねつけがあり、能衣裳のういしやうなどもある。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「云わなくたって、あたしにはちゃんと判っている。秀八がしている翡翠珠ひすいだまは、おまえがいつか、わたしのかんざし良人うち根付ねつけにどうですと云ってすすめた珠じゃないか。どう? 恐れ入ったろう」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背戸せどからまはつてたらしい、草鞋わらじ穿いたなりで、胴乱どうらん根付ねつけ紐長ひもながにぶらりとげ、啣煙管くはへぎせるをしながらならんで立停たちとまつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おやおや、たいそう結構な印籠——金蒔絵きんまきえで、この打紐うちひも根付ねつけも安いものじゃありませんねえ」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悠々と蒲団ふとんの上にすわって、つの細工の骸骨がいこつ根付ねつけにした煙草たばこ入れを取り出した。彼は煙りを強く吹きながら、帳場に働くおてつの白い横顔を眺めた。そうして、低い声で頼山陽らいさんようの詩を吟じた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
根付ねつけとかますとが、十文字の鞘で支えられたのだから、ちょうどいいあんばいにひっかかったのではあったけれども、それが大事の槍であったから、槍持のやっこかっとしました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)