新井あらい)” の例文
新井あらい宿しゅくより小出雲坂おいずもざかおいずの坂とも呼ぶのが何となく嬉しかった。名に三本木の駅路うまやじと聴いては連理のの今は片木かたきなるを怨みもした。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
窮厄きゅうやくにおりながら、いわゆる喉元のどもと過ぎて、熱さを忘るるのならい、たてや血気の壮士は言うもさらなり、重井おもい葉石はいし新井あらい稲垣いながきの諸氏までも
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
田端たばただの、道灌山どうかんやまだの、染井そめいの墓地だの、巣鴨すがもの監獄だの、護国寺ごこくじだの、——三四郎は新井あらい薬師やくしまでも行った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
麻布網代町あざぶあみしろちょう小石川白山こいしかわはくさん渋谷荒木山しぶやあらきやま亀戸天神かめいどてんじんなんぞいつか古顔となり、根岸ねぎし御行おぎょうまつ駒込神明町こまごめしんめいちょう巣鴨庚申塚すがもこうしんづか大崎五反田おおさきごたんだ、中野村新井あらい薬師やくしなぞ
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
修善寺しゅぜんじの温泉宿、新井あらいから、——着て出た羽織はおりは脱ぎたいくらい。が脱ぐと、ステッキの片手の荷になる。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東海道岡崎宿おかざきじゅくあたりへは海嘯つなみがやって来て、新井あらいの番所なぞは海嘯つなみのためにさらわれたこともわかって来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(明治四十一年)九月の末におくればせの暑中休暇を得て、伊豆いず修善寺しゅうぜんじ温泉に浴し、養気館の新井あらい方にとどまる。所作為しょざいのないままに、毎日こんなことを書く。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
父なる人も並々の武士にはあらでかえりてこれをうれしと思ひたり、アアこの父にしてこの子あり、新井あらい父子の如きは今の世には得がたし、われ顧みてうら恥かしく思ふ。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
或る日新井あらい薬師やくしから江古田えこだの村あたりをあるいて、路傍の休み茶屋の豆腐屋を兼ねた店先に腰を掛けると、その家の老婆がしきりに嘉陵が携えていたヤシホの盃に目を
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうそういつかわたくしがおまいりしたのは丁度ちょうどはるなかばで、あちこちのやまもりには山桜やまざくら満開まんかいでございました。走水はしりみず新井あらいしろから三四ばかりもへだった地点ところなので、わたくしはよく騎馬きばまいったのでした。
十月のはじめには、新帝はすでに東海道の新井あらい駅に御着おんちゃく、途中潮見坂しおみざかというところでしばらく鳳輦をめさせられ、初めて大洋を御覧になったという報告が来るようになった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかるに、磯山は、弥〻いよいよ出立というその前日逃奔とうほんし、更にその潜所せんしょを知るあたわず。ゆえを以てむなく新井あらい代りてその任に当り、行く事に決せしかば、彼もまた同じく、のうに同行せん事を以てす。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)