敏捷すばや)” の例文
敏捷すばやい、お転婆なのが、すっと幹をかけて枝に登った。、松の中に蛤が、明く真珠を振向ける、と一時ひとしきり、一時、雨の如く松葉がそそぐ。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ハヽヽ、敏捷すばやい/\、流石に源太だは、我の思案より先に身体がとつくに動いて居るなぞは頼母しい、なあにお吉心配する事は無い、十兵衞と御上人様に源太が謝罪わびをしてな
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
恰度その時、彼等のかたわらを空車が二三台通りかかりました。と、見るや、突然いきなり彼女はその一つを止めて、急いで扉を開けました。その敏捷すばやさに男は面喰って彼女を止める暇がありませんでした。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
吹き落ちる気配けはいも見えないあらしは、果てもなく海上を吹きまくる。目に見える限りはただ波頭ばかりだ。犬のような敏捷すばやさで方角をぎ慣れている漁夫たちも、今は東西の定めようがない。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ころがってのレールへ移ると、敏捷すばやく菜っ葉服の一人の手へ捕えられ、重々おもおもとこの吊り下った大きな斧の下へ立たされ、ちょいと縁を割られ、くるりとなると、また他の縁をちょいちょいと割られ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
梅野は敏捷すばやく其手を擦り拔けて卓子テーブルの彼方へ逃げた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
っかさんにてこれも敏捷すばやい!……折から、店口の菊花の周囲まわりへ七八人、人立ちのしたのをちらりとすかすとともに、雪代がはやくも見てとった。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
途端とたんに恐ろしい敏捷すばやさで東坡巾先生はと出て自分の手からそれを打落うちおとして、ややあわ気味ぎみで、飛んでもない、そんなものを口にして成るものですか、としっするがごとくに制止した。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ちと黙ったか、と思うと、め組はきょろきょろ四辺あたりを見ながら、帰天斎が扱うように、敏捷すばやく四合罎からさかさまにがぶりとって、呼吸いきかず
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
定めしもう聴いたであろうが清吉めがつまらぬことをしでかしての、それゆえちょっと話があって来たが、むむそうか、もう十兵衛がところへ行ったと、ハハハ、敏捷すばやい敏捷い、さすがに源太だわ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
敏捷すばやい事……たちま雪崩なだれ込む乗客の真前まんまえに大手を振って、ふわふわと入って来たのは、巾着きんちゃくひだの青い帽子を仰向あおむけにかぶった、膝切ひざきりの洋服扮装いでたちの女で
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洛中らくちゅう是沙汰これさた。関東一円、奥州まで、愚僧が一山いっさんへも立処たちどころに響いた。いづれも、京方きょうがた御為おんため大慶たいけいに存ぜられる。此とても、お行者のお手柄だ、はて敏捷すばやい。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)