ふる)” の例文
上品な美しいお声で、恋愛の扱われたふるい詩を口ずさんで通ってお行きになることで、煩わしい気持ちを姫君は覚えていた。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
骨董レコードの本当の値打は、電気吹込みの新しいレコードを聴き尽して、ふるきをたずねる意味においてこそ重要なのである。
自分は彼の歩き方をうしろから見て、足に任せてというふるい言葉を思い出した。そうして彼より五六間おくれた事をこの場合何よりもありがたく感じた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのふるい友達もだんだんほろびてゆくと、老人がある時さすがにさびしそうに話したこともあった。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
且亀田鵬斎ぼうさいの如く、篁墩とともに金峨の門に出で、蘭軒と親善に、又蘭軒の師友たる茶山と傾蓋ふるきが如くであつた人もある。わたくしの今これに言及する所以ゆゑんである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いにしへのひとにわれあれや楽浪ささなみふるみやこればかなしき 〔巻一・三二〕 高市古人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ふるきをたずねて新しきを知る。この意味に於ても書画骨董の趣味は大切だいじなものだよ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
くれ去り あした来たりて 顔色いろふるびぬ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茱萸ぐみの實食べたふるさとの
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
屑屋くづやも買はぬ人のふる
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それは洋方を取らざるべからざる境界に身を居くに及ばなかつたからである。正弘は固より保守の人であつた。勢に駆らるるにあらでは、ふるきを棄てて新しきに就かなかつたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ふるきを棄てがたき婦女の心情御憐察可被下くださるべくそうろう
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みずからふるを着、やぶれたるをまと
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
湯島なるふるさとに来て見れば、表なる塗籠ぬりごめはいたう揺り崩され、屋根なりし瓦落ちつもり、壁の土と共に山の姿なせり。されば常に駕籠舁き入るゝ玄関めく方へ往かむこと難く、さりとてこゝにあるべきならねば、先づ案内あない
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わたくしは傾蓋けいがいふるきが如きおもいをした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)