かかは)” の例文
あのます紙鳶を買ふには、この十倍ものおあしが必要であるといふことを。しかし、それにもかかはらず、栄蔵の心には希望のぞみの泉がき出した。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
雪の屋自身もさう感づいてゐるので、神經の鈍い男にもかかはらず、こちらの見たところ、友人から細君のことを云はれるのがいやさうである。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
なんでも、このドラマンドなるものは、若い時に実業に従事して、イギリス人であるにもかかはらず、オランダ人といふ名前のもとに日本にも数年住んでゐた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もともと片方かたはうは暗い二條通に接してゐる街角になつてゐるので、暗いのは當然たうぜんであつたが、その隣家が寺町通りにある家にもかかはらず暗かつたのが瞭然はつきりしない。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
それは、主として快楽が一切無責任だとあらかじめ分つてゐることと、女同士の競争意識が掻き立てられるにかかはらず容易にその男が獲得できると云ふ安心からであらう。——
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
十二年も殿様の役目を勤めて下すつたにかかはらず、お礼の金をたつた十二円だけもらはうとおつしやつたので大臣は余り金高が少いのにびつくりしてしばらくの間は物が言へませんでしたが
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
自分の願望ぐわんまうはかりも、一方の皿に便利な国を載せて、一方の皿に夢の故郷を載せたとき、便利の皿をつたをそつと引く、白い、優しい手があつたにもかかはらず、たしかに夢の方へ傾いたのである。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一二八ときを得たらん人の、倹約を守りつひえをはぶきてよくつとめんには、おのづから家富み人服すべし。我は仏家の前業ぜんごふもしらず、儒門の天命にもかかはらず、一二九異なるさかひにあそぶなりといふ。
され共喜作は食糧しよくれうの不足をうれふるにもかかはらず、己がふ所の一斗五升の米をきたれり、心に其不埒ふらちいきどると雖も、溌剌はつらつたる良魚の眼前がんぜんに在るあるを以て衆唯其風流ふうりうわらふのみ、既に此好下物あり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
人は皆、知ると知らぬにかかはらず、そのことを希望してをり
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
行き当りばつたりに馴染なじみのない銭湯に飛び込む癖さへある私だが、そして、その度毎に莫迦ばか叮嚀に洗ひ浄めねばやまぬ私にもかかはらず、何かの都合で、一日二日入れずにゐると、もう
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
実際また、女のミカドといふものは、古今ここんに少くはないのである。たしかに日本の女の位置は、家畜や奴隷のやうに売買されるにもかかはらず、存外ぞんぐわい辛抱しんばうの出来る点もないではないらしい。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この世には様々の汚いものや見苦しいものや、病気その他の苦しみがあるけれども、それにもかかはらず、この世は美しく人間はいいものであるといふことを、笛の音はしみじみときく人に思はせた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
すると男といふものは、理窟りくつ如何いかんかかはらず、とにかく、内心では妻として——サア・オルコツクの言葉を用ゐれば、家畜或ひは奴隷としての女に、讃嘆の情を禁じ得ないものらしい。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)