をのの)” の例文
旧字:
私は、目がくるめいて四辺あたりが暗くなる様な気がすると、忽ち、いふべからざる寒さが体中ををののかせた。皆から三十間も遅れて、私も村の方に駈け出した。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今もなほどこかの隅で嗚咽をえつの声がきこえる感がして自分の雨に濡れた冷たい裾にも血のしたゝるのかとをののかれるのであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
されば「れぷろぼす」はいよいよ胆をいて、学匠もろとも中空を射る矢のやうにかけりながら、をののく声で尋ねたは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つと乗出のりいだしてそのおもてひとみを据ゑられたる直行は、鬼気に襲はれてたちまち寒くをののけるなり。つくづくと見入るまなこを放つと共に、老女は皺手しわでに顔をおほひて潜々さめざめ泣出なきいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
実際、そんな事が一時間と思ひつゞけて居られるだらうか!彼女は来るべき運命の残忍さにをののきつゝも、またその瞬間に於いて、美しい空と、赤く咲き誇った窓際の花とを無心に眺めることが出来た。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
さながらに曲中の「をののくデスデモナ」となりし
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
おそれみに身も世もあらず、をののきて
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
黄金きんの太陽の片と見てをののけり。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
はとばかりつぐをののくもののいき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
をののき慄ひ、この手の肉は
宮は彼の背後うしろより取縋とりすがり、抱緊いだきしめ、撼動ゆりうごかして、をののく声を励せば、励す声は更に戦きぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
黄金きんの太陽のへんと見てをののけり。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
貫一はをののくちびる咬緊くひしめつつ、ことさ緩舒ゆるやかいだせる声音こわねは、あやしくも常に変れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)