恰好がっこう)” の例文
先生が奥さんといっしょにうちける場合には、五十恰好がっこう切下きりさげの女の人がどこからか来て、留守番をするのが例になっていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕の乗った舟を漕いでいる四十恰好がっこうの船頭は、手垢てあかによごれた根附ねつけ牙彫げぼりのような顔に、極めて真面目まじめな表情を見せて、器械的に手足を動かしてあやつっている。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
奥坐舗の長手の火鉢ひばちかたわらに年配四十恰好がっこう年増としま、些し痩肉やせぎすで色が浅黒いが、小股こまた切上きりあがッた、垢抜あかぬけのした、何処ともでんぼうはだの、すがれてもまだ見所のある花。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
見馴れない四十恰好がっこうの女が、姉のうしろから脊中せなかさすっている傍に、一本の杉箸すぎばしを添えた水飴みずあめの入物が盆の上に載せてあった。女は健三に会釈した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれどもその人が寿命の度盛どもりの上において、自分とははるへだたった向うにいる事だけはたしかなので、彼はこの男を躊躇ちゅうちょなく四十恰好がっこうと認めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翌日朝飯を食いに下りると、昨夕ゆうべの親子のほかに、また一人家族がえている。新しく食卓につらなった人は、血色の好い、愛嬌あいきょうのある、四十恰好がっこうの男である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが案に相違して、談判を持ち込まれた飯場頭はんばがしらは——飯場頭だか何だかその時は無論知らなかった。眉毛まゆげの太くって蒼髯あおひげあとの濃いたくましい四十恰好がっこうの男だった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そばに見ていた三十恰好がっこうの商家の御神おかみさんらしいのが、可愛らしがって、年を聞いたり名を尋ねたりするところをながめていると、今更いまさらながら別の世界に来たような心持がした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仙台平せんだいひらをずるずる地びたへ引きずって白足袋しろたび鼠緒ねずお雪駄せったをかすかに出した三十恰好がっこうの男だ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吉田というのは、でっぷりふとった、かっぷくのい、四十恰好がっこうの男であった。しま羽織はおりを着て、その頃まで流行はやった白縮緬しろちりめん兵児帯へこおびにぴかぴかする時計の鎖を巻き付けていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると診察所からこんセルの洋服を着た三十恰好がっこうの男が出て来て、すぐ薬局の窓の所へ行った。彼が隠袋かくしから紙入を出して金を払おうとする途端とたんに、看護婦が敷居の上に立った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「よい御天気で」と手拭てぬぐいをとって挨拶あいさつする。腰をかがめる途端とたんに、三尺帯におとしたなたがぴかりと光った。四十恰好がっこうたくましい男である。どこかで見たようだ。男は旧知のように馴々なれなれしい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)