恭々うやうや)” の例文
食卓に向い合って、金博士が、王水険老師おうすいけんろうし恭々うやうやしくはいしながらいった。それは老師にとって、いささか皮肉にも響く言葉であった。
彼らの尊敬しないものは何があったろう? その番組にたいしても、酒杯にたいしても、自分自身にたいしても、みな恭々うやうやしかった。
さも窮屈らしく恭々うやうやしげな恰好をして坐っていたのは、第八、百人隊長のブブリウス・アクヴールスという喘息ぜんそく持であから顔の肥満漢で
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
婆さんは胸の前でいくつも十字をきりながら裁判官の後の壁にかかってる大きいレーニンの肖像へ向って恭々うやうやしく辞儀した。
ズラかった信吉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
土饅頭を思はせるやうな円まつちい顔を一種恭々うやうやしげな面持でかしこまつてゐるのを、その厚いふくれた唇が不器用な微笑を浮べてゐるのを見た。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
そうして私たちのつつましく取り囲んでいるこの卓子は、恐らく殿下の侍従たちの額が恭々うやうやしく集められたことであろう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
神社や学校で恭々うやうやしく買上げる手筈になっているではないか! それをまあ、りにも選って!——と私は、その時芸術家の感興をわきまえぬ村人達から
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
邸前に見張をしていた制服巡査は寒そうに肩をすぼめていたが、署長を見ると、急に直立して、恭々うやうやしく敬礼した。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ここで今までの雛妓らしい所作から離れてまるで生娘のように技巧を取り払った顔付になり、わたくしを長谷の観音のように恭々うやうやしげに高く見上げた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「さあ、参りましょう。」海蛇は白髪はくはつって恭々うやうやしく申しました。二人はそれに続いてひとでの間を通りました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
五十日後でなければ、それがふたたび開かれることがないであろうことを知っていた悟浄は、睡れる先生に向かって恭々うやうやしく頭を下げてから、立去った。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
領事館へ挨拶に行けば、英吉利イギリスの王様の写真などが恭々うやうやしく飾ってあって、まるで倫敦ロンドンのような気持になる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自動車が走り出すと、竜太郎は、むしろ、恭々うやうやしくというほどの手つきで、先刻の写真を取り出した。
墓地展望亭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
江ノ島の寺には沢山宝物があって、坊さん達が恭々うやうやしくそれを見せる。宝物には数百年前の甲冑や、五百年前の金属製の鏡で、その時代の偉い大名が持っていたもの等がある。
必ず恭々うやうやしく拝礼し、ジャランジャランと大きな鈴をならす綱がぶらさがっていれば、それを鳴らし、お賽銭さいせんをあげて、暫く瞑目最敬礼する。お寺が何宗であろうと変りはない。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
老栓は片ッ方の手を薬鑵に掛け、片ッぽの手を恭々うやうやしく前に垂れて聴いていた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
巣鴨から帰って、居間に入った時、敷居に両手を突いて、奈世は恭々うやうやしく
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
この事件で一番皮肉なのは、僕がその翌日二十円の特別賞与を、恭々うやうやしく社長から編集局長の手を通して渡されたことである。無論その時は、僕は、もう良心の呵責かしゃくも何も感じはしなかった。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
すると谷が恭々うやうやしく礼をするような身構えをして浅野の顔を見あげた。
風蕭々 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
彼はこの恍惚くわうこつたる悲しい喜びの中に、菩提樹ぼだいじゆの念珠をつまぐりながら、周囲にすすりなく門弟たちも、眼底を払つて去つた如く、唇頭しんとうにかすかなゑみを浮べて、恭々うやうやしく、臨終の芭蕉に礼拝した。——
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と、式部官の一人が恭々うやうやしく訊ねたのである。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ステパン・ステパノヴィッチは、先ずダーリヤの手を執ってその甲に恭々うやうやしく接吻し、次いでマリーナにも同じ挨拶をした。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それらの傑作の上におのれの小さな愚作を恭々うやうやしくつみ重ねながら、巨匠の考えを補ってるのだと思い込んでいた。
着換えをすますと彼は博士の前に出て恭々うやうやしく三拝九拝の礼を捧げ、きびすをかえして、部屋をでんとすれば、何思ったか金博士は、急にうしろからめた。
一通り中の設備を見てからネネムは警察長と向い合って一つのテーブルに座りました。警察長は新聞のくらいある名刺めいしを出してひろげてネネムに恭々うやうやしくよこしました。見ると
角かくしの重い首をうなだれて入って来た花嫁に先立って、いくつもの箱を重ねた島台が恭々うやうやしく運ばれた。それは、花嫁からの土産であった。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それだのに、朝になると、必ず詰襟の少年が、字の書いてある原稿紙を取りに来るのである。少年は梅野十伍の女房に恭々うやうやしく敬礼をして、きっとこんな風に云うに違いない。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「広告はいやだ。音楽さえよければ、それで広告になるはずだ。」本屋はクリストフの意志を恭々うやうやしく尊重した。そして店の奥に書物をしまい込んだ。それはりっぱに保存されていた。
みんなまっ黒な長い服を着て、恭々うやうやしく礼をいたしました。
泰造は、多計代のたのみのままに、銀色の錦の包みものを両手で、恭々うやうやしくそこにのせた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
帆村は別に怒りもせず、壺に手をかけて、逆にしたり、蓋をいじったりしていたが、やがて、恭々うやうやしく壺に一礼をすると、手にしていた大きいハンマーで、ポカリと壺の胴中どうなかを叩き割った。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
説教の木のとなりに居たねずみいろの梟は恭々うやうやしく答えました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
杉内アナウンサーは、マイクロフォンの前で、恭々うやうやしく一礼をして下った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
帆村は恭々うやうやしく頭を下げると、しびれのする脚を伸ばして立ちあがった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
支配人は、恭々うやうやしく手を出して、青年の帽子を受けとった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)