こう)” の例文
日本堤を行き尽して浄閑寺に至るあたりの風景は、三、四十年後の今日、これを追想すると、こうとして前世を悟る思いがある。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
行路変化多し回顧すれば六十何年、人生既往を想えばこうとして夢のごとしとは毎度聞く所であるが、私の夢は至極しごく変化の多いにぎやかな夢でした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あたかも彼七本やりを以て有名なるしづたけ山下余吾湖をるにたり、陶然とうぜんとしては故山の旧盧きうろにあるが如く、こうとして他郷の深山麋熊の林中にあるをわす
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
北国の春の空色、青い青い海の水色、澄みわたった空と水とは藍をとかしたように濃淡相映じて相連あいつらなる。望む限り、縹緲ひょうびょう、地平線に白銀のひかりを放ち、こうとして夢を見るが如し。
顧みて往時を追想すれば、百事こうとして夢のごとし。進退これきわまるも、またいかんともすべからず。いかなる金満家もここに至れば、その憂悶、実にいうに忍びざるものあり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
こうとして一人みずからたたずむ時に花香かこう風に和し月光げっこう水に浮ぶ、これが俳諧の郷なり(略)
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
お貞はかの女が時々神経に異変をきたして、かしらあたかもるるがごとく、足はわななき、手はふるえ、満面あおくなりながら、身火しんか烈々身体からだを焼きて、こうとして、ぼうとして、ほとんど無意識に
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時、この場合、何人なんぴとこうとして鎌倉時代の人となるであろう。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かつてわたくしが年十九の秋、父母に従って上海シャンハイに遊んだころのことを思い返すと、こうとして隔世の思いがある。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幽賞雅懐はじめのごとし、眼を閉じて苦吟し句を得て眼を開く、たちまち四老の所在を失す、しらずいずれのところに仙化して去るや、こうとして一人みずからたたずむ時に花香風に和し月光水に浮ぶ
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
独ソノ東ヲ欠ク十二。島嶼とうしょソノ間ニ星羅せいら棊布きふシ皆青松ニおおハル。潮ハ退キ浪ハしずかニシテ鴎鷺おうろ游嬉ゆうきシ、漁歌相答フ。こうトシテ画図ニ入ルガ如シ。既ニシテ舟松島ノ駅ニ達ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
イハンヤ二十年ノ久シキヲヤ。今出シテコレヲ閲スレバすこぶる遼豕りょうしナルヲ覚ユ。然レドモ当時ノ灯光書影歴歴トシテ目ニアリ。こうトシテ前生ヲ悟ルガ如シ。すなわチ編シテ甲集トナス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)