恋敵こいがたき)” の例文
旧字:戀敵
唄合戦の揚句に激昂した恋敵こいがたきの相手に刺された青年パーロの瀕死の臥床で「生命の息を吹込む」巫女みこの挙動も実に珍しい見物である。
映画雑感(Ⅵ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
貴公に取っては恋敵こいがたき——まあ隠さんでもいいさ——その海野甚三郎が、切腹ものとは、耳よりな話じゃないか。萩井家のお小夜どのを
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その実恋敵こいがたきの君や倭文子さんに復讐をしている様に思わせる、あの念入りなトリックが、僕には何の効果もなかったのだからね。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吾輩が断髪令嬢の御秘蔵の犬と知らずにぱらったのも偶然なら、その犬を断髪令嬢の恋敵こいがたきの医学士の所へ持って行って売付けたのも偶然だ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして「何だ。柳沢が好いといって、いわば現在恋敵こいがたきおれのところに来ていて、ほろほろ泣き声を出すやつがあるものか」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
いったい其奴そやつは何者であろう? 自尊の強い性質だけにまだ見ない恋敵こいがたきに対しても、激しい憤りを感じるのであった。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……そのうちに他の恋敵こいがたきがあらわれて、先に結婚を申し込んでしまう。ね? 君はもう破滅だ。……君の「恋」は永久にそこで終ってしまうかもしれないのだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
それも小夜子を恋敵こいがたきとしての感情というより、文壇や画壇の人で、いつもはなやかににぎわっている小夜子のうち雰囲気ふんいきが、何となく不安な感じを与えたからであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこで、僕に云わせると、失恋のきょく、命をなげだして、恋敵こいがたきと無理心中をやった熊内中尉は、大馬鹿者だと思う。鰻のにおいを嗅いだに終った竹花中尉も、小馬鹿こばかぐらいのところさ。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此女が定基に対して求めたことは無論恋敵こいがたきの力寿を遠ざけることであったろうが、定基は力寿に首ったけだったから、それを承知すべくは無いし、又直截ちょくせつな性質の人だったから
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
十月の始めまで小夜子は、恋敵こいがたきの出現を全く知らなかったようです。けれど勿論これは知らずにいるはずはありません。ふとしたことから春一の婚約の成立しそうなのを耳にしました。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
恋人を取られた(或いは取られたと考えた)女が、恋敵こいがたきの所へ押しかけて行ってこれに戦を挑むのである。戦は常に衆人環視の中で堂々と行われる。何人も其の仲裁を試みることは許されぬ。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「……やはり、千賀春の講中で、いわば、あっしの恋敵こいがたき……」
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「君は一種の恋敵こいがたきってものかな?」
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「はい、その周馬めでござります。恋敵こいがたきのあなた様が、江戸を去ったのを幸いにして、いんように、お千絵様を責め悩ますじゃございませんか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
コイツは多分、この犬の名前がウータといって、自分の恋敵こいがたき、唖川歌夫からテル子嬢に贈ったものである事もチャンと知っていやがるに違いない。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
貧乏かきの庄太郎は、一郎の補助なしには生きて行くことが出来なかった。彼は、云いがたき不快をおさえて、屡々恋敵こいがたきの門をくぐることを余儀なくされた。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
サヴィニャク伯爵が恋敵こいがたきのモーリスの化けの皮を引きはぐつもりで鹿狩りを割愛し、半日がかりで貴族系譜の数十巻をしらみつぶしに調べ上げ、やっと目的を達したと思うと
建物から一夜のうちに時計台を盗んでいったり、科学博物館から剥製はくせい河馬かばの首を盗んでいったり、また大いに変ったところでは、恋敵こいがたきの男から彼の心臓を盗んでいったりいたしました
これぞ悲劇の始まりで、宗介と夏彦とは兄弟ながら恋敵こいがたきとして闘った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
恋敵こいがたきとするには余りに相手が不足すぎる。うぬれでなく、どう公平にくらべても、自分を見代えて、この猿殿と約束を交わす物好きな女性はよもあるまい。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の恋敵こいがたきが、相手もあろうに生きた人間ではなくて、いかに名作とはいえ、冷い一個の人形だと分りますと、そんな無生むしょうの泥人形に見返られたかと、もう口惜しくて口惜しくて
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ウフッ、なるほど、恋敵こいがたきだからで」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこには相手がないのだ。一体全体、誰に向って嫉妬をするのだ。細君は決してT以外の男に肌身を許した訳ではない。つまり、彼の恋敵こいがたきは、とりも直さず彼自身に外ならぬのだ。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
、このおれに、どうすることができるというんだ。相手は人間ではない、一匹の野獣だ。その野獣がおれの恋敵こいがたきなのだ。チェッ、おれはけだものを相手に、一人の女を争っていたんだ
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)