心耳しんじ)” の例文
二人は電気スタンドの下で、心耳しんじを澄まして聴いた。第一番のハ長調の前奏曲の、溌剌とした美しさが、完全に私どもを魅了してしまった。
麹町三番町の屋敷まちには、かしぎのけむりが鬱蒼うっそうたる樹立ちにからんで、しいんと心耳しんじに冴えわたるしずけさがこめていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なお心耳しんじのある名将となると、いかに上手じょうずが吹いても、敵の看破みやぶり、虚実を察し、鋭鈍えいどんはかり、決して、その耳をあざむくことはできないという。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの室にて、日毎に心耳しんじを澄まして聞くをえしヴアイオリンは、この新居にても亦聞きえざるにあらず。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
クリストが、実際こう云ったかどうか、それは彼自身にも、はっきりわからない。が、ヨセフは、「こののろい心耳しんじにとどまって、いても立っても居られぬような気に」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
示教をい、そのうえ、草木の私語ささやきに聴覚を凝らし、風雨の言動に心耳しんじをすまし、虫魚の談笑を参考することによって、自己の秘願の当不当、その成否、手段、早道はもとより
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
なんにも知らぬ米友さんの心耳しんじをさわがしてしまうのです、どんな静かなところへ置いても、この心の騒々しさは癒りません、その反対に、どんな騒がしいところへ置きましても
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
遊び好きなる事に於て村の悪太郎あくたろう等に劣るまじい彼は、畑を流るゝ濁水だくすいの音颯々さっさつとして松風の如く心耳しんじ一爽いっそうの快を先ず感じて、しり高々とからげ、下駄ばきでざぶ/\渡って見たりして
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
呉羽之介は耳を傾けるともなく、心耳しんじを清くして聴き入りました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さうして心耳しんじには夜昼となく恐ろしい声が聞こえて来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
バチバチとはぜるかがりまきの音が遠く聞えて来たろう。またもっと心耳しんじらせば、本丸のうちに、無門の胸襟きょうきんをそのまま手枕の一夢をむさぼって
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心耳しんじをすまして、ここから聞けば、くような、笑うような、名状し難い人の声もするように思われる……いずれにせよ、この正月の松の内をこえて、彼らのなかに
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと蝋燭ろうそくほのおを見て、ジイと心耳しんじを澄ます様子であったが、何思ったか、不意に、一刀のさやを払って畳の筋目すじめ逆持さかもちにさきを向け——ブスッと、つばきわまで突き通した。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
備えておる。なに、どうしてそれが分ったというか。……はて、愚なる問い、それしきの心耳しんじ機眼きがんがのうて、いくさができるかよ。見ておれ、やがて物見が帰って来て告げることばを
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宋江は心耳しんじらし、九拝して、ただただ聞き入るのみだった。女神はかさねて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に、こののりの山に分け入って幾日、迦陵頻伽かりょうびんがにも似た中に心耳しんじを澄まし、血しおの酔いからめ、われとわが身にかえってみると、彼の胸には、菩提ぼだいを生じないではいられなかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
。——心耳しんじを澄ましてよく聴くがいい、為に怒る義人の血の音を
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを心耳しんじを持たない正成ではない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みな襟を正し、みな心耳しんじを澄ました。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心耳しんじ機眼きがん
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)