御傍おそば)” の例文
かなら魂魄こんぱくだけは御傍おそばへ行って、もう一遍御目にかかりますと云った時に、亭主は軍人で磊落らいらく気性きしょうだから笑いながら、よろしい、いつでも来なさい
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おんなつかしさ少時しばしも忘れずいずれ近きうち父様ととさまに申しあげやがて朝夕ちょうせき御前様おまえさま御傍おそばらるゝよう神かけて祈りりなどと我をうれしがらせし事憎し憎しと、うらみ眼尻まなじり鋭く
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
籠中かごのなかひとこゑふるはし、「おひとわるい、かゝ難儀なんぎきようがりてなぶりたまふは何事なにごとぞ。きみ御心おんこゝろはいかならむ、まこと心細こゝろぼそくなりさふらふ」と年效としがひもなくなみだながす、御傍おそば面々めん/\笑止せうしおも
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
上様の御傍おそばに変ったことがございますまいか、今ここを見廻みまわっておりますと、被衣かつぎを着た者が、ここの雨戸を開けて出ましたから、二刀ふたたち突きましたが、突かれながら、あれなる被衣を落して
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし、御傍おそば御用の日記取調べましたるところにては、初代長光の御脇差。こしらえは朱磯草研出しの蝋色鞘。山坂吉兵衛の小透し鍔に、鮫皮萌黄糸の大菱巻のつか。目貫には銀の輪蝶りんちょうの御定紋。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
姉様あねさまこれほどの御病気、殊更ことさら御幼少おちいさいのもあるを他人任せにして置きまして祇園ぎおん清水きよみず金銀閣見たりとて何の面白かるべき、わたしこれより御傍おそばさらず御看病致しましょとえば七蔵つらふくらかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「早う天主でうす様の御傍おそばへやってくだされ」
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
水仕女みずしめなりともして一生御傍おそばに居られさいすれば願望のぞみは足る者を余計な世話、我からでも言わせたるように聞取ききとられてうとまれなば取り返しのならぬあかつき、辰は何になって何に終るべきとかなし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)