廉子やすこ)” の例文
主上と准后の廉子やすこからは、祭祀の供華くげを賜わっていたので、そのおこたえに参内したものと、衛府えふ伝奏でんそうには触れられているという。
准后の廉子やすこにしろ、かしこすぎるくらいな女性だ。文観の宗旨しゅうしがたんなる邪教や愚昧ぐまいな説法にすぎぬなら、それにたばかられるはずはない。
むずかしい武家側とのはなしあいもまずついた結果なので、准后じゅんごう廉子やすこから女院、女房たちも、すべて一しょに下山することとなった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
始終の様子を、その物音の遠くになる果てまでを、殿上の“櫛形くしがたの窓”のあたりで聞きすましていた女性がある。准后の廉子やすこであった。
皇后のかしずきに、阿野あの中将のむすめ廉子やすことよばるる女性があった。廉子の美貌はいつか天皇のお眼にとまって、すぐ御息所みやすんどころの一と方となった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侍側の親房はこの日、おもなる公卿と共に別院にはいったきりで見えなかったが、廉子やすこにはその協議のなみならぬこともわかっていたので
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妃の廉子やすこは配所仕えの童僕、金若という者へ、いちいち「これを喰べてごらん」と、毒味どくみをさせてからでないと、帝へお膳をすすめなかった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて三位ノ廉子やすこがお冠をさし上げている庭前に人影がさした。今日を晴れと装った道中警衛の大将佐々木道誉であった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三位さんみ廉子やすこ准后じゅんごうづきの女房らが、そのたび御座ぎょざのおあかりに風ふせぎの工夫をしては、ともし直すが、つけると、またすぐ消されてしまう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな自嘲のおたわむれにも、三人の御息所みやすんどころ——三位ノ内侍廉子やすこ、権大納言ノ局、小宰相こさいしょう——などはすぐ涙ぐむのであった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼をふさぐと、帝の寵妃ちょうひ廉子やすこが浮かぶ。また、大酔した帝と佐々木道誉とのふしぎなごとがあたまの中を通って行く。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三位ノ局廉子やすこが見えた。しかし彼女がこれへ来るまでには、そのかん、かなりな時間がたった。もしやと、ここの者どもが、案じていたほどである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、やがて彼女は、みかどの寵幸が厚うなればなるほど、准后じゅんごう廉子やすこの監視がたえず身にそそがれているのに気づいた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやこの忠顕だけに来たわけではない。准后じゅんごう廉子やすこ)のおん許へも懇願の使いを出して、るる、恭順きょうじゅんのこころをべ、前非を悔いておるていなのだ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「みかどはおひとりでいらせられます。かしずく後宮の私たちは、廉子やすこさまはじめ二十人もの妃嬪ひひん御寵おんちょうきそっていました。どうして真実が生れ出ましょう」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寵姫ちょうきの三位ノ局廉子やすこも、吉田定房の名を聞くのさえ、「裏切り者」へのさげすみと「密告者」という憎しみに、身もくようなまゆをちらと、みかどへ、して見せた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三位さんみつぼね、阿野廉子やすこは、仰せと聞くと、いま夕化粧もすましたばかりなのに、もいちど櫛笥くしげへ入って、鏡をとりあげ、入念にまゆずみ臙脂べにをあらためてから立った。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帝の寵妃ちょうひ、三位ノ廉子やすこなのである。すぐ内からは、侍者じしゃの千種忠顕ただあきが、侍者ノ間からいらえて出て来た。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、まず廉子やすこをなぐさめられた。そして次に、側近たちの、そよあしのような恐怖やら狼狽の影へ
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、お湯殿の上屋うわやのあたりで、みかどのお声がしていた。「……廉子やすこを呼べ」と、仰っしゃったようである。浴後の御髪みぐしやおんの奉仕にかしずいていた女官のひとりが
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて、みかどをお送りして出た准后じゅんごう廉子やすこだの、親王方だの、あまたな女房たちは、中堂のしとみのうしろで、みな、おもてを袖につつんで、われもなく泣き伏しているさまだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとり三位ノ局廉子やすこだけは泣きもしない。泣く以上なものをじいんとまゆに耐えている白い顔なのだ。きッと結んだままなくちも風雪に抵抗する冬牡丹ふゆぼたんのつぼみのべにを置いたようである。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて、女性の廉子やすこは、声をすらシュクと洩らして、くやしげにむせいた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清涼せいりょう紫宸ししんの皇居とちがって、ここは広いといっても、もと西園寺実氏さねうじの私邸であった町なかの館である。何につけお耳うるさい。いつもそれには気をつかっている三位ノ局廉子やすこがすぐ言った。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういうなかに在って、たれよりも平静でいたのは准后じゅんごう廉子やすこであった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今を時めく寵妃とたれ知らぬはない阿野廉子やすこなどの艶姿あですがたであった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、おそばにいた寵姫ちょうき廉子やすこが、そっと、みかどへ、ご注意した。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)