幽明ゆうめい)” の例文
「引っ返す道はありません。ここの門が幽明ゆうめいさかいです。てまえが先に馳け抜けて通りますから、すぐ後からお続きなさい」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此剣これのために、父鉄斎とは幽明ゆうめいさかいを異にし、恋人栄三郎を巷に失った不離剣ふりけん……去年こぞの秋以来眼を触れたこともなく
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
幽明ゆうめい物心ぶっしん死生しせい神人しんじんの間をへだつる神秘の一幕いちまくは、容易にかかげぬ所に生活の面白味おもしろみも自由もあって、みだりに之を掲ぐるのむくいすみやかなる死或は盲目である場合があるのではあるまいか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
幽明ゆうめい交通こうつうこころみらるる人達ひとたちつねにこのこと念頭ねんとういていただきとうぞんじます。
大同ダムでき止められて、本来の懸崖の三分の一以上、二百じんも高く盛りあがったその水際みずぎわには、すなわち現実におけるうおは緑樹のこずえにのぼり巉岩ざんがん河底かていの暗処に没して幽明ゆうめいさらに分ちがたい。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
無礼な挙動を振舞ふるまって得意がるが、これは表は善で、裏は悪なりという前提にとらわれたるより起こる誤解であって、幽明ゆうめいの区別を論ずる者が、ゆうとかあんとか称すれば、それだけで悪感をいだき
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
嫉妬しっとにわれを忘れたお藤、よろめく足を千鳥に踏みしめて、さながら幽明ゆうめいのさかいをくように。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まだ幽明ゆうめいさかいにあって、まったく死んでしまったわけではないので、いくぶん、ぬくみがあるが、ささの小枝からはいうつった小さな白蛇しろへびは、かれの体温たいおんへこころよげにそって、腕からのど
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくし良人おっと素朴そぼく物語ものがたりたいへんな興味きょうみもってききました。ことわたくし生存中せいぞんちゅうこころばかりの祈願きがんが、首尾しゅびよく幽明ゆうめいさかいえて良人おっと自覚じかくのよすがとなったというのが、にもうれしいことかぎりでした。