ちいさ)” の例文
尫弱ひよわかったちいさい頃の房吉の養育に、気苦労の多かったことなどを言立てる隠居のことばを、好い加減に房吉は聞流していた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家を出て円タクを呼留めて、車中の人になると、野村の頭には、之という理由わけもなく、ちいさい時の事が思い浮んで来た。
ちいさい時からそうだったよ。明るい華やかの事ばかりをお前は好いておりましたよ。夏彦様のご気象のようにねえ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すさんだ家庭にちいさいからつらい目に会って来た肇はふっくりした、焼立やきたてのカステーラみたいに香り高い甘味のある
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
どうもハッキリ覚えていませんのですけれど、ちいさいときあたくしの見た父は、右足がわるくて、かなりひどく足を
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうもなんだか唯泣いてばかりいては訳が分らないじゃアないか、冗談じゃない、又おっかあと喧嘩でもしたのだろう、お前のお母のあの通りの気性はちいさい時分から知ってるじゃアないか
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
えのきの実に団栗どんぐりぐらい拾いますので、ずっと中へ入りますれば、栗もしいもございますが、よくいたしたもので、そこまでは、可恐こわがって、おちいさいのは、おいたが出来ないのでございます。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「でも、あなたはちいさいうちは方々へ出かけたことがあるでせう?」
毒気 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
こうした仲のむつまじい時、よく双方の親兄弟のうわさなどが出る。親戚みうちの話や、自分らのちいさい折の話なども出た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
というのは、二川重明の亡父重行しげゆきは、やはりもう故人になった野村儀作の父儀造ぎぞうと、ちいさい時からの学校友達であり、後年儀造は二川家の顧問弁護士でもあった。
お累が云うのにてめえは隠して居る、汝はなぜうだ、ちいさうちから面倒を見てったのに
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旦那さん——堪忍して……あの道々、あなたがおちいさい時のお話もうかがいます。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私のちいさい頃、この室へ来ぬ前に、弟と一緒に弾いた七弦琴の音がする。(一層ひときわ高く七弦琴鳴る。その音絶えると同時に、堅き鉄の扉はおのずと開けて一人の愛らしき少年現われる。手に七弦琴を持つ)
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四十代時分には、時々若い遊人あそびにんなどをちかづけたと云う噂のある隠居は、おゆうが嫁に来るまでは、ちいさい時から甘やかして育てて来た子息むすこの房吉を、猫可愛ねこかわゆがりに愛した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家が近所にあったところから、ちいさいおりの馴染なじみであった、おかなと云うその女が、まだ東京で商売に出ている時分、兄は女の名前を腕にえりつけなどして、嬉しがっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ちいさい芳太郎を育てて来ても、芳太郎の頭脳あたまにはまだ田舎にいる母親のことが、時々憶い出されているということや、今の親父と折合いの悪いことなどを言い出してこぼした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)