峡谷きょうこく)” の例文
武蔵野原を北に歩んで尽くところ、北多摩の山の尾根と、秩父ちちぶ連峰のなだれが畳合たたみあっている辺に、峡谷きょうこくさとが幾つもあるそうです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冬彦ふゆひこ先生の随筆に硝子の面に作った絹糸位の割れ目を顕微鏡で毎日覗いていると、小山の中に峡谷きょうこくがあるように見えて来る。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
夏休みが来ると二人はコロラド大峡谷きょうこく一周の自動車旅行に出る計画だった。もちろん自動車は二人がかわるがわる運転するのだ。往復に五週間の日数があててあった。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
李陵は韓校尉かんこういとともに馬にまたがり壮士十余人を従えて先登せんとうに立った。この日追い込まれた峡谷きょうこくの東の口を破って平地に出、それから南へ向けて走ろうというのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「ええ、ええ、かわまでは二千じゃくから六千じゃくあります。もうまるでひどい峡谷きょうこくになっているんです」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼は、盲目の春生が、何時いつ会えるか分らない母を慕って、踏んだりったりされながらこのけわしい山や峡谷きょうこくを越えて、雲南省まで辿たどりつこうとする姿を想像するだけでもたまらなかった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
容易に敵のうかがい知り得ない峡谷きょうこくの間に六十有余年も神璽をようしていたと云う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大昔、竜門りゅうもん峡谷きょうこくに、これぞ真の森の王と思われる古桐ふるぎりがあった。頭はもたげて星と語り、根は深く地中におろして、その青銅色のとぐろ巻きは、地下に眠る銀竜ぎんりゅうのそれとからまっていた。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
だが、直前に見えるようでも、まだそこへは数里、それも、これからはいっそうけわしい峡谷きょうこくや岩脈にはばまれている距離がある。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええええ河までは二千尺から六千尺あります。もうまるでひどい峡谷きょうこくになっているんです。」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「ヨーヨーの峡谷きょうこくです。大砲岩から、北の方へ十キロばかりいったところです」
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
峡谷きょうこくをおどりながら下ってゆく若い奔流は、つぼみの花に向かって笑った。たちまち聞こえるのは夢のごとき、数知れぬ夏の虫の声、雨のばらばらと和らかに落ちる音、悲しげな郭公かっこうの声。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
峡谷きょうこくで、蜀の哨兵しょうへいに出会った。その逃げるを追って、なお進むと、やや有力な蜀勢が寄せ返してきた。一進一退。数日は小競こぜり合いに過ぎた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と九兵衛の足は急に勇気づいて来ました、そして例の疲れを知らない足どりで、峡谷きょうこくの細道をひたすら急ぐうちに、だんだん人里くさい景観がひらけて来る。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深夜、廃寺の方丈から、ふたたび徳島海部かいふの同心に追われた弦之丞とお綱は、あれから、深林、峡谷きょうこくをよじのぼって、剣山の裏伝いへかかったことは想像に難くない。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
染屋の宿の実家へ用達ようたしにゆくというていで、おりんは高麗の峡谷きょうこくから武蔵根のすそへ降りてゆきます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな奥深い峡谷きょうこくは、町から思うと寒い筈だが、案外冷たい風もなく、南勾配みなみこうばいって山歩きをしていると草萌頃くさもえごろのむしむしとする地息に、毛の根がかゆくなる程な汗を覚える。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、千じんの深さともたとうべき峡谷きょうこくには、向こうへわたる道もなく、蔦葛つたかずら桟橋かけはしもない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孔明の先見にたがわず、司馬懿軍は北山の峡谷きょうこくにかかるや蜀の伏勢に襲撃された。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて英田川あいだがわ峡谷きょうこくを足もとに見おろすあたりまでかかると
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
峡谷きょうこくの一方へひくくくだっていく間道かんどうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)