小笹おざさ)” の例文
たとひ洗足せんそくを求めたところで、おうなは水をんでれたかうだか、根の生えた居ずまひで、例の仕事に余念のなさ、小笹おざさを風が渡るかと……音につれて積る白糸しらいと
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
杉の大木の下に床几しょうぎを積み上げたるに落葉やゝ積りて鳥の糞の白き下には小笹おざさ生い茂りて土すべりがちなるなど雑鬧ざっとうの中に幽趣なるはこの公園の特徴なるべし。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いつもかれが好みてい来るところにいで落ち葉を敷きつ、ちがや、野ばら、小笹おざさたぐい入り乱れし藪叢やぶを背にしてうずくまり、前には流れの音もなく走るをながめたり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
地震で焼けた向島むこうじまの梵雲庵は即ち椿岳の旧廬きゅうろであるが、玄関の額もれんも自製なら、前栽せんざい小笹おざさの中へ板碑や塔婆を無造作に排置したのもまた椿岳独特の工風くふうであった。
二人が押開く柴折戸のすそに触れて垣際かきぎわに茂った小笹おざさの葉末から昨夜ゆうべのままなる露の玉が、ななめにさし込む朝日の光にきらきらと輝きながらこけの上にこぼれ落ちた。種彦は機嫌よく
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
心魂こころも今は空になり、其処そこ此処ここかと求食あさるほどに、小笹おざさ一叢ひとむら茂れる中に、ようやく見当る鼠の天麩羅てんぷら。得たりと飛び付きはんとすれば、忽ち発止ぱっしと物音して、その身のくびは物にめられぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
たとえば寛政五年の外南部の大はたのネブタ流しは「牧の朝露」という紀行に「六七尺一丈ばかりの竿のさきに、彩画かいたる方なる火ともしに七夕祭と記して、そが上に小笹おざさすすきなどさし重ね云々」
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたくしは小笹おざさの茂った低い土手を廻って、漸く道を求め、古松の立っている鳥居の方へ出たが、その時冬の日は全く暮れきって、軒の傾いた禰宜ねぎの家の破障子やぶれしょうじに薄暗い火影ほかげがさし
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふもとに遠き市人いちびと東雲しののめよりするもあり。まだ夜明けざるにきたるあり。芝茸しばたけ、松茸、しめじ、松露など、小笹おざさの蔭、芝の中、雑木の奥、谷間たにあいに、いと多き山なれど、狩る人の数もまた多し。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこをくぐって、あたりを見ながら、芝生をひろって、こずえの揃った若木のかえで下路したみちを、枯れたが白銀しろがねへりを残した、美しい小笹おざさを分けつつ、やがて、つちも笹も梢も、向うへ、たらたらと高くなる
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)