小仏こぼとけ)” の例文
旧字:小佛
と、小仏こぼとけの上で休んでいた旅人たちは、今、自分たちの後ろから登って来る一団の旅の群れを、これは観物みものと、みちばたで迎えていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七円、十円と価格が分れているのを、十円のに決めて日限にちげんを切って約束をする。そこで仏師屋では、小仏こぼとけを作る方の人が観音を作り始める。
小仏こぼとけ、与瀬、猿橋、大月と、このあたりの紅葉はまだ少し早いが、いつもはつまらぬところでも捨てがたい趣きを見せていた。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
お角が一人で小仏こぼとけの方へ行ってしまってから、駒井能登守の一行がこの関所を立って同じ方向に出かけました。
酒折さかをりの宮、山梨の岡、塩山ゑんざん裂石さけいし、さしの名も都人ここびとの耳に聞きなれぬは、小仏こぼとけささ難処なんじよを越して猿橋さるはしのながれにめくるめき、鶴瀬つるせ駒飼こまかひ見るほどの里もなきに
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし発車して一時間もすると、それはそれなりに、身辺が落ちつきなごんできて、小仏こぼとけのトンネルを越えたころからは窓の外を眺め入る余裕もできてきました。
歩くこと (新字新仮名) / 三好十郎(著)
小仏こぼとけ小平こへいがすんで、ようやく杉戸を下しましたが、それからが、息を次ぐ暇もないほどの早業なんです。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
小仏こぼとけこえて、はや私たちは雪の国にはいっていた。闇にもしるき白雪の上に、光が時に投げられる。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
なかなか小坊こぼうさん」は、私などは弘法様こうぼうさまのことかと思っていた。これを小仏こぼとけとなえていた子どもの、近所にあることも知っていたのである。山梨県ではそれをまた
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小仏こぼとけ峠、長尾峠、十国峠、三国峠、徳本とくごう峠、針ノ木峠……即座に思い出す秋の峠のいくつかである。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
小仏こぼとけの峠もほどなく越ゆれば、上野原、つる川、野田尻、犬目、鳥沢も過ぎてさるはし近くにその夜は宿るべし、巴峡はきょうのさけびは聞えぬまでも、笛吹川の響きに夢むすび
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
蝮捕りの歌をうたいながら、小仏こぼとけも越し、甲府も過ぎ、諏訪から木曽谷へ入り込んだ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
東は秩父及び小仏こぼとけ古生層西は花崗岩の分界と見て差支ないようである。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
小次郎は忘れていたが、そういわれて、小仏こぼとけの上で出会った角屋すみやの一行を思い出し、その庄司しょうじ甚内が、ここのあるじということも分って
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道よりもあれば新宿しんじゆくまでは腕車くるまがよしといふ、八王子までは汽車の中、をりればやがて馬車にゆられて、小仏こぼとけの峠もほどなく越ゆれば、上野原うへのばら、つる川、野田尻のだじり犬目いぬめ
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小仏こぼとけを昼間越えるのはこれが始めてだと言ったり、馬入川ばにゅうがわを見て何という川かなどと尋ねられる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、戸板を蹴ると、今度は裏に返り、藻をばらりと被った小仏こぼとけ小平こへいが、「おしゅうの難病、薬下され」と、片手を差し出すかと思いのほか、それも背後うしろを向いているのだった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
小仏こぼとけ渓谷けいこくにおいて、日本左衛門とああいう訣別けつべつをした金吾が、そのごの一念をお粂の行方に傾倒していたのは想像に難くないことです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子どもが手をつないで輪になって、ぐるぐる廻る遊び、全国どこにもある「なかなか小仏こぼとけ」というものなどは、鹿の角を幾分か複雑にして、たくさんのがいっしょに楽しめるようにしただけで
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「そういえば、店を出る時、小仏こぼとけ越えの道程みちのりを聞いておりました。女の足では難儀でしょうか——などと申しまして」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なかなか小仏こぼとけ念打ねんうちなどはよい例だと思うが、今一つだけもう少し手近いのを挙げると、畠作はたさくに力を入れる東日本の農村などでは、もぐらもち(オゴロモチ)の害にはいつも弱りきっている。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼女の今夜の敏捷びんしょうなことは、かつて、小仏こぼとけの甘酒茶屋から暗夜の険路を追って行ったその夜の迅さにも劣りません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中央線でいうならば、山梨県は小仏こぼとけのトンネルからはじまり、向うは日野春ひのはる富士見ふじみの二つの停車場ていしゃじょうのなかほどでおわるのだが、見て行くうちに屋根の形がいつの間にかまるでかわってしまう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これから武蔵へかかる山境やまざかいは、姥子うばこ鳴滝なるたき大菩薩だいぼさつ小仏こぼとけ御岳みたけ、四やままた山を見るばかりの道である。すきな子供のむれに取りまかれることがいたってまれだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小仏こぼとけの上まで来ると、甚内は程よい所を見つけ
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)