寝覚ねざ)” の例文
旧字:寢覺
「女房を? そうさね……何だかおつりきに聞えるじゃねえか、早く一人押ッ付けなきゃ寝覚ねざめが悪いとでも言うのかい?」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
みぞれの降る夜半よわに、「夜は寒みあられたばしる音しきりさゆる寝覚ねざめを(母いかならん)」と歌って家の母のなさけを思ったり
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
寝覚ねざめた奈々子を連れて、表のほうにいるようすであったが、格子戸をからりあけてかけ上がりざまに三児はわれ勝ちと父に何か告げんとするのである。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しぎにありては百羽掻也もゝはがきなり、僕にありては百端書也もゝはがきなりつきのこんの寝覚ねざめのそらおゆれば人の洒落しやれもさびしきものと存候ぞんじさふらふぼく昨今さくこん境遇きやうぐうにては、御加勢ごかせいと申す程の事もなりかねさふらへども
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
菅笠すげがさは街道のほこりに赤うなって肌着はだぎ風呂場ふろばしらみを避け得ず、春の日永きなわてに疲れてはちょううら/\と飛ぶに翼うらやましく、秋の夜はさびしき床に寝覚ねざめて、隣りの歯ぎしみに魂を驚かす。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その頭を枕の上で一寸いっすんらしても、あるいは足——足はよく寝覚ねざめの種となった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨日きのうとなれば何事もただなつかし。何ぞ事の是非をきわめて彼我ひがあやまちあきらかにするの要あらんや。青春まことに一夢いちむ。老の寝覚ねざめに思出の種一つにても多からんこそせめての慰めなるべけれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それより、あたしは、寝覚ねざめが悪かないかと思いますよ。ことにこのお方は、その用事とやらが済み次第、御自分から手をまわして、きっとお父つぁんの手にかかると、お侍のお言葉です。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「この頃大変心配なことが起りまして、夜も寝覚ねざちでございます」
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そうか。好いところがあったな。君も寝覚ねざめが好いというものだ」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
友千鳥諸声もろごゑに鳴く暁は一人寝覚ねざめのとこも頼もし
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
蒲団ふとんの重き夜半よは寝覚ねざめに。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
寝覚ねざめに思う益もなし
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ寝覚ねざめが悪いと言えば、大迫玄蕃がそれだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)