容器いれもの)” の例文
手ごろの煙管パイプで煙草をみ、それから内緒の樂しみに黒麥酒くろビール容器いれものを持つて、自分の陰氣な階上の住場處へと歸つて行くのが常であつた。
父が此の上もなく大切にしている堆朱ついしゅなつめというのを覗かしてもらいましたら、それは私のおはじきを納れるによい容器いれもののように思われました。
虫干し (新字新仮名) / 鷹野つぎ(著)
私は、ほいきたとあわてたような声を出して、手をのばして蜜の容器いれものを取った。蜜を彼女は、焼けば焼くほどチリチリに縮みあがる肉の上に注ぎながら
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
他の店ではどこでも一割出す習慣になっている、それをこの店だけが出さぬとあれば、容器いれものなどはどんな扱いを
彼等かれらには饂飩うどんおほきなざると二升樽しようだるとそれから醤油しやうゆ容器いれものである麥酒罎ビールびんとがげられた。垣根かきねそととき彼等かれら假聲こわいろしてどつとはやてゝまたはやした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかしそれはすぐ炉のそばに横たわっているのを発見したが、同時に、そのから容器いれものとともに、肱枕ひじまくらをして、よだれをながして眠っている見つけない人間をも見出し
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この下ばたらきの女は、ちょうづめをこしらえる用意よういとして、豚のを小さい容器いれものける役目やくめなのです。
食卓の上の醤油の容器いれものをパッと蛸氏の顔にかけ、次にその傍の砂糖の容器をなげつけ、つゞいて酢の入つた容器を投げつけたので、蛸氏は醤油と砂糖と酢とをあびて
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
状箱のような容器いれものに毛糸で編んだお金入が入れてある、そのお金入の中にほんのわずかなお金を見た時は、自分はほんとに済まないことを言ったような悲しい気持になって
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
箱から出せばもぐりますが、容器いれものの千兩箱二つ——金具のはまつた恐ろしく頑丈なのを
ふん。これが黄金の三日月の容器いれものとは、考えやがったな。しかしこうなれば、お気の毒さまだ。ありがたく頂戴ちょうだいしてしまおう。いやまだお礼をいうのは早い。この中から三日月さまを
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
落ち込む水をすぐ捉らえて、漏斗に入れられた酒や水が漏斗形にグルグル廻りながら下の容器いれものにしたたるように捉えられた水は穴の内面を眼にも止まらぬ勢いで漏斗形に駸々しんしんと馳せ廻り
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たかが茶を入れておく容器いれもので、道具の一つにすぎませんが、昔は、この茶壺にたいする一般の考えが、非常にちがっていて、まず、諸道具の上席におかれるべきもの、ことに、大名の茶壺や
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
巴里へ行きますと、沢山ある珈琲店カフェーで、香り高い珈琲コーヒーのコップを前に控え、人々はひと息、息を入れています。珈琲の容器いれものが柄の付いた縦に細長いシークなコップで、それに吸管ストローをつけて来ます。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
天地の生氣の容器いれものであつて、此の容器たる自分の身より生氣を漏洩するのは、即ち此の容器を不用に歸せしむる所以で、愈〻多く漏洩するのは、愈〻早く此の容器を無用の物にする譯なのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「ぢや、妾が納屋へ行つて貰つて来るわ、容器いれものを出してお呉れ。」
ゾイラス (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
要するに藤吉郎自身、藤吉郎という人間をよくよくあらためてみると、途方もない大慾たいよく容器いれものなのである。喜怒哀楽とよぶ愚かなものはみんな盛り上げているばんである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)