)” の例文
ステッキをついて猩々しやう/″\のやうに髯を生やした馬鹿に鼻の高い「おろしや人」が虎よりは見物人の方を見乍ら長閑のどかにパイプをかしてゐる。
ある朝、食事をすますと、例によつて、一緒に甲板へあがり、神谷は煙草をかしはじめ、千種はその傍で、ぼんやり空想に耽つてゐた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「さあさあどこへなといらっしゃい」長火鉢の前へ片膝を立て、お誂え通りの長煙管、たばこかしていた養母のおかねは、黒い歯茎で笑ってみせた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何かの主任を勤めて、午飯ひるめしには麺麭パンを三きれと巻煙草を一本かす事にめてゐる男が横つちよから口を出した。
庸三はまだ全くは眠りからめないような気分で、顔のれぼったさと、顔面神経の硬張こわばりとを感じながら、とにかく居住いを正して煙草たばこかしていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
熊城は凝然じいっと考えに沈みながらしばらくたばこかしていたが、やがて法水に向けた眼には、濃い非難の色が浮んでいた。しかし、彼はめずらしく静かに云った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さても気の長い男め迂濶うかつにもほどのあれと、煙草ばかりいたずらにかしいて、待つには短き日も随分長かりしに、それさえ暮れて群烏むらがらすねぐらに帰るころとなれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
電灯を点けて煙草をかす、ひ終ると再び灯りを消してスツポリと夜着を頭から引き被る——真暗だ。彼は、眼を視開いてゐた。……云ふまでもなく、何も考へてゐない。
眠い一日 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
風はつめたし、呼吸いきぬきかたがた、買った敷島をそこで吸附けて、かしながら、堅い薄縁うすべりの板の上を、足袋の裏冷々ひやひやと、い心持ですべらして、懐手で、一人で桟敷へ帰って来ると
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寒さの隨分嚴しい晩でしたが、しつきりなしにかす煙草の烟や、Mのお母さんの心添への伊太利亞ベルモットの醉ひに、みんなの顏は赤く染まり、何となく座が浮き立つてゐました。
S中尉の話 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
この男は一本の綱の上に懸け渡した種々雑多な襤褸布をむさくるしい幕にして、戸外の冷たい風を防いでいた。そして、穏やかな隠居所にぬくぬく暖まりながら、呑気に烟草をかしていた。
ああではないか、こうではないかと、いくら頭の中で考えてみても、さっぱり合点がてんがゆかず、しょうことなしに彼は煙草ばかりプカプカかしながら、夕飯までずっとそこに坐りこんでいた。
私達も談笑の急流をわたった。香気のために私は毎朝オウ・ド・コロンを飲んで、頭髪にはゴミナ・アルジェンテンの固化油オイルを使用した。妻は英吉利イギリス直輸入の婦人煙草「仕合せな夢ラッキイ・ドリイム」をかしつづけた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
彼は莨盆を自分で持って来たらしく、葉巻をうまそうにかした。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
将軍の癖といふのは葉巻シガアかし方で、将軍は今度の戦争が始まつてから、今日になるまで、たつた一本の葉巻しか喫かしてゐない。といふと、どんな正直な人でもが
一つのロハ台へ腰を掛け、好きなラ・ラビアをかすのが、夏以来の習慣であった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一本かしながら入って来ると、見たばかりで、もう忘れていたくらいだったのが、またふっと気が付いて、ああ、ここに有ったっけと、お思いの、それがお前、前の処には無くってさ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まさかに其様な高慢気も出すまじ、例ののつそりで悠長に構へて居るだけの事ならむが、扨も気の長い男め迂濶にも程のあれと、煙草ばかり徒らにかし居て、待つには短き日も随分長かりしに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
細巻煙草たばこかしていた。煙草を支えた左手の指に、大きなダイヤが輝いていた。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
後に残った怪紳士は臆するような様子も無く椅子にドカリと腰を下し葉巻を悠々とかし出した。真黒な瞳、真黒な髪、鳶色とびいろの皮膚、やや低い身長たけ、彼の様子は一見して亜細亜の人間に近かかった。
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)