収攬しゅうらん)” の例文
おそらくこれは嫉妬しっとと不信とに基づくことであろうから、この際友誼ゆうぎを結んで百事を聞き知ろうとするには、まずその心を収攬しゅうらんするがいい。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
北条早雲という男も、なかなかの傑物であったに相違ない、赤手空拳でもって、関八州を横領し、うまく人心を収攬しゅうらんしたのはなかなかの手腕家だ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
叡山の大塔にご起居ましまし、もっぱら武事を御練磨あそばされ、叡山大衆三千の心を、収攬しゅうらんせられおられますそうな
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ですから今英国政府の執って居る方針は、随分チベット国民の人心を収攬しゅうらんするに足るだけの効力はあるけれども、しかし政府に対しては全く無効です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
大して有効でもないか知らぬが、とにかく彼等は人心収攬しゅうらんの手段を取っている。それで税はついに取れぬ。革命後中央に収まる金は僅かに二千万テールに過ぎぬ。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
で、如何いかに、挙措きょそを解放するにしても、常にある程度の収攬しゅうらんを、おのずから自分の上に忘れてはいけません。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
公権力を握った立場での政治的統合手段は宣示命令手段、禁圧対抗手段、折衝せっしょう協力手段、収攬しゅうらん手段、教化宣伝手段という風に分けることもできる(大石兵太郎)。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
しょせん新田殿では人心の収攬しゅうらんもおぼつかない。武家の人気にんきいなみようなく尊氏へかたむいてもいる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「人心収攬しゅうらん術」というので、これは私の訳したものなのである。原稿料は一枚三円でお前に半分やると云っていたが、その後言を左右にして私に一文もくれなかった。
風と光と二十の私と (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
蘇我馬子そがのうまこ以来、勢力ある氏族の野心は、屡々しばしば宮廷を悩ましたのであるが、壬申の乱及び大津皇子の悲劇は、そのあらわれは激しかったが比較的短日月にて収攬しゅうらんされた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
魚住氏はこの一見収攬しゅうらんしがたき混乱の状態に対して、きわめて都合のよい解釈を与えている。いわく、「この奇なる結合(自己主張の思想とデターミニスチックの思想の)名が自然主義である」
豪農巨商等の有力者を政府に収攬しゅうらんせよとつけ加えることを忘れていない。
民心を収攬しゅうらんするに足る山岳宗教があらたに発生したからである。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
チベットの民心を収攬しゅうらんするため及びチベット政府の官吏の心を収むるために、機密費を沢山使いますればネパール政府はきっと成功するだけの位置を占めて居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「ムム。戦の上でも、星を祭ったり、卜占うらないを観たりするが、奇蹟や神だのみがあてではない。人心収攬しゅうらんの術で、べつに理由のあることだと、さんざんお談義をくッてしまった」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後家さんは闊達かったつなもので、愛嬌で泊り客をなめまわし、身銭みぜにをきっておごってみたり、踊りの時などは、先へ立って世話を焼いたりするものですから、つい人心を収攬しゅうらんしてしまって
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
非常にチベットの民心を収攬しゅうらんしたという程の事はないが、とにかく悪感情をいだかれなかった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
麾下きか諸将がようやく疲れを思い、空腹を覚え出していたとき、彼はなお人心の収攬しゅうらんをわすれず、戦後に思慮をめぐらしていたと、この逸事を説く者もあるが、さてどうであろうか。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豊臣以来のぎょし難き人物を縦横自在に処理し、内外の英物を適材適処に押据おしすえ、雲の如き群雄をことごとく一手に収攬しゅうらんした政治的大手腕というものは、驚くにるべきもので——もとよりこの人は
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
勝者の手向けた一きくの涙は、またよく敵国の人心を収攬しゅうらんした。人民にはその年の年貢をゆるし、旧藩の文官や賢才は余さずこれを自己の陣営に用い、土木農田の復興に力をそそがせた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よく人心収攬しゅうらんのご器量があるものなれば、さきに鎌倉を陥し、また勅宣の御軍みいくさをひきいて治平のすいにあたりながら、今日まで天下の諸族を、いまだにこんな支離滅裂にはしておきますまい。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
衣冠いかん官階かんかい尊貴そんきが、絶対に、人心のうえに大きな作用をもつその当時にあっては、秀吉なども、ただ自己の凡情を満足させるだけでなく、天下収攬しゅうらんとして、ひとつの必要事にはちがいない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)