“反響(こだま)” の例文
それにしても若しも此処に伯五郎達のやうな口達者が現れたら、定めし壮烈な反響(こだま)が火花を散らすことだらうと不図思つたら
沼辺より (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
法水の声のみが陰々と反響(こだま)しても、それがてんで耳に入らなかったほど、検事と熊城は、目前の戦慄(せんりつ)すべき情景に惹(ひ)きつけられてしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
『君らしい?』反響(こだま)のやうにさう言つて、彼はひたと私の眼を見つめた。其の眼……何といふ皮肉な眼だらうと私は思つた。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
広い邸内(やしき)に反響(こだま)して返って来る自分の声を聞いたとき、何となく文次は、ぶるると身ぶるいを禁じ得なかったが、気を取り直して、もう一度。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その他(ほか)のものは、ただ混雑したつぶやき声、乱れたさけび声、そして反響(こだま)のまた反響(こだま)する声ばかりでございます。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
あらゆる茂みを見回り、反響(こだま)を起こして呼ばわり、それから空(むな)しくもどりかけたが、そのとき歌声を聞きつけた。
「軽便かしら。」と、青年が独語(ひとりごと)のやうに云つた。いかにも、自動車の爆音にもまぎれない轟々と云ふ響が、山と海とに反響(こだま)して、段々近づいて来るのであつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
けれども聽け! だれがそこに隱れてゐるのか? 戸の影に居て、啄木鳥(きつつき)のやうに叩くものはたれ? ああ君は「反響(こだま)」か。老いたる幽靈よ! 認識の向うに去れ!
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
物語るのではなからうか? 音そのものが既におのれの反響(こだま)のなかに悲哀と寂莫の声を聴きながら
すぐにド、ド、ド、ド、——と反響(こだま)が起こり、その反響が止んだ時一時に城下(まち)がひっそりとなった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遠い山のほうからその汽笛の音はかすかに反響(こだま)になって、二重にも三重にも聞こえて来た。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
霧は可なり濃くなつて何もはつきりとは見えず、夏の長き日も暮かゝつて來るので、わが乘つた車の轟きも或時は奇妙に反響(こだま)して、瀧の轟きが聞えるのでは無いかと疑つたりした。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
は、は、は、と云って笑う妖婆の声は山に反響(こだま)をかえした。その聖神の社の近くにある楠の大木は伐ろうとして斧を入れると血が滴り、朝になるとその切口は癒えて痕が判らなかった。
鷲 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
百姓女の叫び声は、徒(いたず)らにシーンとした朝の空気に反響(こだま)するばかりである。
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
自分たちはみんな同じような気持で同じことを考えていて、誰れかが話しの緒口(いとぐち)をきるのを待遠しく思っていたかのように見えた。そこへ、この言葉が落ちてきたんだ。勿論それは反響(こだま)した。
謡は風そよぐ松の梢(こずえ)に聞ゆ、とすれど、人の在るべき処にあらず。また谷一ツ彼方(かなた)に謡うが、この山の端(は)に反響(こだま)する、それかとも思われつ。試みにソト堂の前に行(ゆ)きて——われうかがいたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長き反響(こだま)の、遙なる遠(おち)、奥深き暗き統一(ひとつ)の夜のごと光明のごと
現代小説展望 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
反響(こだま)する心(こゝろ)と心(こゝろ)
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
恰も大理石の伝堂に反響(こだま)する銀鈴の如く静に、……「汝! アツシリアの若者よ!」と、いふ声で私がK君を見上げた時は
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そのうち、彼の眼に異常な光芒(こうぼう)が現われたかと思うと、ポンと床を蹴って、その高い反響(こだま)の中から、挙げた歓声があった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
夕映えの空に、遠鳴りのような下町のどよめきが反響(こだま)して、あわただしいなかに一抹(いちまつ)の哀愁をただよわせたまま、きょうも暮れてゆく大江戸の一日だった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「軽便かしら。」と、青年が独語(ひとりごと)のように云った。いかにも、自動車の爆音にもまぎれない轟々(ごうごう)と云う響が、山と海とに反響(こだま)して、段々近づいて来るのであった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
雨さへ降らなければ、毎日、毎日、丁々たる伐木の音と邪氣(あどけ)ないお雪の清(すず)しい笑聲とが、森の中に響いた。日に二本か三本、太い老木が凄じい反響(こだま)を傳へて地に仆れた。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
馬蹄の音や車輪の響きが霹靂のやうに轟ろきわたつて四方から反響(こだま)となつて跳ね返つて来る。
狼の吠え狂う声が山一面に反響(こだま)をかえした。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
円く重い二つの音声が沼の上を滑つて、あざやかに反響(こだま)した。向ふの丘からも、櫟林の梢からも、朗読者の本来のものでないつくり声が鳴り返つた。
沼辺より (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その顔は、また不思議なほどの無表情で、秘密っぽい、法水(のりみず)の言葉にも反響(こだま)一つ戻ってはこないのだ。やがて、自失から醒めたように、正確な調子で問いかえした。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あけ六つの太鼓が陽に流れて、ドゥン! ドーン! と中村城の樹間に反響(こだま)しているとき。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
黒長裳(くろながも)静かに曳(ひ)くや、寂寞の戸に反響(こだま)して
詩 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
どうも反響(こだま)ではなくて、あちこちの物蔭から、同じ唱歌の口笛が淙々と湧き出して来るではないか! しかし彼は尚も耳を疑つて、更に自分も歌ひ続けはぢめると
まぼろし (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
弥生の悲鳴が、尾を引いて陰森(いんしん)たる樹立ちに反響(こだま)した。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あれは皆私の声の反響(こだま)なんですぜ、私のこの麗しい声、今こうして貴方に話してゐるこの声が、森や河にこだましてゐるのです、それを貴方は音楽だなんて思つてゐるのです。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
さつきの木村の独白が、はるか微かな耳に、麗朗と反響(こだま)してゐるばかりだつた。
渚 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
僕の頭には彼等のいろいろな言葉が百雷の反響(こだま)となつて轟き渡るのであつた。
沼辺より (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
Nとツル子は、反響(こだま)を面白がつて頓狂な叫び声を挙げたりした。
山を越えて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)