卑屈ひくつ)” の例文
卑屈ひくつになるなと云った男の言葉がどしんと胸にこたえてきて、いままでの貞女ていじょのような私の虚勢きょせいが、ガラガラとみじめに壊れて行った。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「まったく、おじいさんの、おっしゃるとおりです。かねが、あるために、貧乏人びんぼうにんをつくり、また、貧乏びんぼうが、人間にんげん卑屈ひくつにするのです。」
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
病気なれば気の毒、早速さっそく医者の手にかかるがいいが、もし我儘だったらあんまり卑屈ひくつにへいへいしていると、かえって増長ぞうちょうさせていけない。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何を苦しんでか外部の顔のために進取の気象をうばわれ、いたずらに卑屈ひくつ引込ひっこみ勝ちになろう、と思えば心も晴々しくなって来る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
八五郎の剽輕へうきんな調子にさそはれるやうに、身扮みなりつた、色の淺黒い、キリリとした若いのが、少し卑屈ひくつな態度で、恐る/\入つて來ました。
が、いつも物におびえているようなその眼は、遠く、藤吉郎のすがたを見ても、あわててまた窯の前に、卑屈ひくつな犬のように背をかがめてしまう。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、決して、目下めしたの者の持つ卑屈ひくつな考で、自分自身をいやしめることはしなかつた。その反對に、私は、かう云つたのである——
きっとまた、へまな不作法などを演じて、兄たちを怒らせるのではあるまいかという卑屈ひくつな不安で一ぱいだった。
故郷 (新字新仮名) / 太宰治(著)
卑屈ひくつにすることだ。心にも行為にも裏と表とを教えることだ。誰だって自分の行為を他に約束すべきではない。自分の行為の主体を、監視人に預けるべきではない。
何故かというと、そう日本婦人が欧米の婦人に及ばないとかなんとか口々にいうていると、自然に日本婦人が卑屈ひくつになって来て、向上心が無くなってしまうのである。
「狐」や「三つボタン」のような上級生に対して、卑屈ひくつにもならず、言いがかりもつけられないようにするには、次郎の苦心も、実際並たいていではなかったのである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「いいえ、僕の友だちがやはり旧藩主きゅうはんしゅのところへ家庭教師にあがっていますが、ナカナカつらいといっています。僕は正三が卑屈ひくつな人間にならなければいいと思って、それを案じるのです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かくいったからとて人間の心の中に唯物ゆいぶつ拝金はいきん卑屈ひくつなる根性こんじょうがあって、体の制裁によって心が左右さるるものだと断言することは出来ぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そしてそれとなく、於福に向っては、卑屈ひくつな気を持つなと教え、世間に向っては、明国と日本との密接な関係をさとした。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう、そう、まえからだれにも、人間にんげん平等びょうどう権利けんりはあったのさ。それを無智むち卑屈ひくつのため、みずか放棄ほうきして、権力けんりょくや、金銭きんせんまえに、奴隷どれいとなってきたのだ。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
又六の弟子で、小屋の取締りを兼ねて居る、中年者の巳之吉みのきちはヒヨコヒヨコと卑屈ひくつらしく小腰を屈めました。
そのあくる日から復一は真佐子に会うと一そう肩肘かたひじを張って威容いようを示すが、内心は卑屈ひくつな気持で充たされた。もう口は利けなかった。真佐子はずっと大人振ってわざと丁寧ていねい会釈えしゃくした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
卑屈ひくつになるばかりだ。銃後はややこしくて、むずかしいねえ。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と祐助君は正三君が卑屈ひくつになることを恐れて強くいう。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これに反し打たれてもられてもジッとこれに堪えるのは、はなはだ陰気で卑屈ひくつのごとく、普通の人にはちょっとその強さを見ることが出来ぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
五十五六の世馴れた愛嬌者で、少し卑屈ひくつらしいところはありますが、その代り町内の旦那衆に可愛がられて、小僧を相手に一文商もんあきなひをし乍ら氣樂に暮して居ります。
それが、暗に相違したので、すぐ彼らしい卑屈ひくつが出て、居るに堪えないような容子をしていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年には卑屈ひくつの態度は少しも見えなかった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
頬冠ほゝかむりも取らずに、格子の外で二つ三つお辭儀する卑屈ひくつらしさが、妙にお靜を焦立いらだたせます。
卑屈ひくつぢゃわん
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卑屈ひくつらしい清三郎は、平次の袖を引くのです。長いものに卷かれつけて居る江戸の町人達は、どんなことがあつても、武家のしかも大身とは爭ふことは出來なかつたのです。
平次は疊に手は置きましたが、卑屈ひくつにならない程度の丁寧さで、かうきり出しました。
愛嬌あいけう者の喜八は、少し卑屈ひくつらしいが、邪念じやねんのない世辭笑ひをして居ります。
妹の死骸を引取りに行くのに、岡つ引をつれて行くのは、相手に濟まないと言つた、町人らしい卑屈ひくつな考へからでせう。それにこの界隈かいわいでは、錢形平次の顏はあまりによく知られて居りました。
平次に呼ばれて、喜三郎は卑屈ひくつらしく二つ三つお辭儀をしました。
妙なところへ、卑屈ひくつな世辭笑ひの伴奏が入ります。