十重とえ)” の例文
一人の検事がすぐ進んで行ってタン屋の店から出て来るばかりのそのいやなものをくるくる十重とえばかりにひっくくってしまいました。
縄なくて十重とえくくとりこは、捕われたるを誇顔ほこりがおに、さしまねけば来り、ゆびさせば走るを、他意なしとのみ弄びたるに、奇麗な葉を裏返せば毛虫がいる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寄手よせて十重とえ二十重はたえも、かろがろしくなく、城兵の疲れを待つふうだが、もし、みかどの脱島が成功したとすれば、関東の令は、この千早一城に
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名状しがたき混乱、倒れた一人の上に、十重とえはたえに折りかさなった人の山、その過半数は例のセルロイド面をつけたままだ。笑いの面の蹴球戦しゅうきゅうせんだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これはたいした人気で、あたしのお座は、十重とえにも取りまかれ、頭の上からも押っかぶさるほどに愛された。
かねて合図のあったものか、忽ち天主の頂きからトウトウと聞こえる太鼓の音! 館の四門の方角からドッと起こったときの声! 館は十重とえにも囲まれたらしい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
櫓の前には鞍を置いた馬が十重とえ二十重はたえにつながれ、城では絶えず太鼓を打って士気を鼓舞していた。
それ十重とえ二十重はたえかさなりって絵巻物えまきものをくりひろげているところは、まった素晴すばらしいながめで、ツイうっとりととれて、ときつのもわすれてしまくらいでございます。
また十重とえ八十重はたえに入り混り、また時間的にも無限の昔から無限の未来に連絡しているのであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
軒下のながれも、その屋根を圧して果しなく十重とえ二十重はたえに高くち、はるかつらなる雪の山脈も、旅籠はたご炬燵こたつも、かまも、釜の下なる火も、はては虎杖の家、お米さんの薄色の袖、紫陽花あじさい
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天上のあまがわがすっかり凍って、その凍った流れが滝になって、この世界の地上のいちばん高いところから、どうっと氷の大洪水が地上いっぱいに十重とえ二十重はたえも取りまいて、人畜は言わでものこと
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私たちには、十重とえ八十重はたえいんえんの紐が結びつけられていまして、成功を目標にして努力しても、案外早く酬いられる人もあり、随分遅く酬いられる人もあります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
綿をつかねてでて、末広がりに天井へ、白布を開いてのぼる、湧いてはのぼり、湧いてはのぼって、十重とえ二十重はたえにかさなりつつ、生温いしずくとなって、人のはだえをこれぞ蒸風呂。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)