おびや)” の例文
諸侯の領内の治外法権地に拠り、百姓・町人をおびやかすばかりか、領主の命をも聴かなかつた。其為、山伏し殺戮がしばしば行はれてゐる。
文「お前さん方は長い物をさして、人をおびやかすのは宜しくありません、お師匠様の御名儀にもかゝわります、以後たしなまっしゃい」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
渠奴かやつ犬の為におびやかされ、近鄰きんりんより盗来ぬすみきたれる午飯おひるを奪はれしにきはまりたり、らば何ほどのことやある、とこゝに勇気を回復して再び藪に侵入せり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
だから彼等の耽美主義は、この心におびやかされた彼等の魂のどん底から、やむを得ずとび立つた蛾の一群ひとむれだつた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分たちをおびやかすやうになるか分からない、若しかして自分たちがこの家を手放なさなければならないやうな羽目にでもなつたりするのよりか、一そのこと
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
或る年意外の高水がささえて、いつまでも田畠を浸しおびやかすので気をつけて見ると、川の中流に黒いまるみのある大岩のごときものが横たわって、流れをき止めていて
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「去年は倭奴わど上海をおびやかし、今年は繹騒えきそう姑蘇こそのぞむ。ほしいままに双刀を飛ばし、みだりにを使う、城辺の野草、人血まみる」。これ明の詩人が和寇わこうえいじたるものにあらずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
お浦を殺すとまでおびやかした事は余が確かに聞いた所だ、其の時秀子は余の許へ来てさえも手巾はんけちを以て巧みに左の手を隠して居た、左の手に恐ろしい証拠の傷が有るにあらずば
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
おびやかされたやうに、私は枕から顔を放して、兄の顔を視守みまもつた。二言三言眠り足らない自分を云ひ訳しようとでもする言葉が、ハツキリした形にならないまま鈍い頭の中でうづを巻いてゐた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
「中途で悪漢におびやかされたものですから、嫂さんにお侍たせしました。」
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
が、誰一人、それはその当時彼女をおびやかしていた不安な生から逃れるためだった事を知るものはなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
三十有余人を一家いっけめて、信州、飛騨ひだ越後路えちごじ、甲州筋、諸国の深山幽谷ゆうこくの鬼を驚かし、魔をおびやかして、谷川へ伐出きりだす杉ひのきかしわを八方より積込ませ、漕入こぎいれさせ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一度はこの草におびやかされて、いかにも文化住宅の浅はかさを、思い知らされずにはすまぬような時期があるように見えるが、少し程過ぎると、これもすすきよりはなお素直に退散してしまう。
おびやかす為に顔形の複写を作らせただろうと鑑定しましたが、其の複写を
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
狼が化けて老女となりもしくは老女が狼の姿をかりて、旅人をおびやかしたという話は西洋にも弘く分布しているらしいが、日本での特色の一つは、これもまた分娩ということとの関係であった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
甚蔵は甚く余におびやかされ、最早逃れる路は唯余に秀子の素性を知らせ、愛想を盡かさせるに限ると見て取り、止むを得ず、余を茲へ寄越したのだ、まさかに殺人女と知った上で、余が猶も秀子を愛し
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)