先鞭せんべん)” の例文
うなると、いよ/\怪しいのは越後屋の養子の金次郎ですが、お神樂の清吉に先鞭せんべんをつけられては、今更何うすることも出來ません。
「囲碁」や「能楽」のように西洋人に先鞭せんべんをつけられないうちにだれか早く相撲の物理学や生理学に手をつけたらどうかと思うのである。
相撲 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いま一歩という手前でみんごと先鞭せんべんを打たれましたので、常勝将軍の右門もおもわず歯ぎしりをかんでしまいました。
今われわれは、ようやく宇宙旅行の先鞭せんべんをつけ、宇宙尖兵うちゅうせんぺいとしてこうして大宇宙に乗りだしたが、既に時機が遅くはなかったかと心配しているのだ。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ビングが北斎伝出版の計画はかくの如くゴンクウルの先鞭せんべんつくる所となりしがため中止するのやむなきに至れりといふ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこでペインに「小生も貴君きくんと同様の事業をくはだて居り候へども、貴君のすでに之を完成されたるは結構千万の儀にて、先鞭せんべんの功は小生よりお譲り可申まうすべく云々うんぬん
私は常に誰かに先鞭せんべんをつけられさうなことを気遣つて、だから年端としはのゆかぬ雪子にどうかして一日も早く意中を明かしたいと、ひとりくよ/\胸を痛めた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そして自ら朝鮮を侵略して行ったこのさる英雄は一度でそれが懲らしうるつもりで、まず二十六人の「侵略者」を長崎の立山たてやま磔刑はりつけにし、虐殺の先鞭せんべんをつけた。
函館時報社の飛行機に先鞭せんべんを付けられて、地団太じだんだを踏んでいた小樽タイムス社と、その後援者ともいうべき谷山家の援助を受けまして、たたみボートと、食糧と
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その先着者を出し抜いて、事ごとに先鞭せんべんを着けようとする英国公使の態度は、ハリス以来日本の親友をもって任ずるファルケンボルグにこころよいはずもない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今は学問場裡じょうりに彼我併立の勢を成して、今後我学者のつとむる所は唯れに対して先鞭せんべんつくるに在るのみ。
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
報道の先鞭せんべんをつけておくためと、読者の好奇心をあおるためとに、いち早くあれだけの記事を載せて、田川夫人からさらにくわしい消息の来るのを待っているのだろう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私の思うのには、村右衛門が河原物かわらものといわれた役者の階級打破に先鞭せんべんを附けたものです。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
万々ばんばん失策に出で候て、私共同志の者ばかりつのり候も、三十人、五十人は得べくに付き、これを率いて天下を横行し、奸賊かんぞくの頭二ツ三ツも獲候上にて、戦死つかまつり候も、勤王の先鞭せんべんにて
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
師匠は五体そろっているのですから、何んとなく手放しにくいような容子ようすが見えましたが、元々私がこの事件には先鞭せんべんを附けている手柄もあることを師匠も充分承知していることだから
ただわしは幸運な先鞭せんべんをつけたというまでだよ。だが幸運には違いない。殊にこの世界大戦のさなかに、日本人のわしがそれを発見したというのは、何か厳粛な天意のような気がする。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
誰か先鞭せんべんをつける者が、もう出なければならぬ時だ、志士論客がえるばかりで、実際に事を示す者がなければしようがない、成る成らぬは別だ、おそらく成就はせぬだろうが、一拳を
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
知らず知らずにその先鞭せんべんをつけたのは、オリヴィエだった。
かういふ風であるから大人に成つて後東京の者は愛嬌あいきょうがあつてつき合ひやすくて何事にもさかしく気がきいて居るのに反して田舎の者は甚だどんくさいけれどしかし国家の大事とか一世の大事業といふ事になるとかへつて田舎の者に先鞭せんべん
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それに先鞭せんべんを着けたのはフランスのベルリオーズで、「幻想交響曲」「ハロルド」その他の諸作が、あいついで世界の楽壇を驚かした。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
西洋人に先鞭せんべんをつけられないうちに、一日も早くオリジナルで芸術的でしかも大衆的におもしろい俳諧連句的映画の創作に着手する事を切望するものである。
さすがにポーはこのトリックにも先鞭せんべんをつけている。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし私の希望するところはだれか日本人でこの方面に先鞭せんべんをつけてくれる人があればいいと思うのであるが、日本ではたいてい西洋の学者がまずやり始めて
日常身辺の物理的諸問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
して居るうちに先鞭せんべんをつけられて、あたら溜飮を下げそこねたわけだよ