偽瞞ぎまん)” の例文
彼が佐貝へ来て三十日ほどたつ、すでにこの市の不正と偽瞞ぎまんと悪徳の所在を調べ、飢と寒さと物資欠乏に泣く市民の実情を知った。
盗まれた二品ふたしなというのも、ひょっとしたら彼女の偽瞞ぎまんであるかも知れない。小さな二品を人知れず処分するのはさして面倒なことではない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
偽瞞ぎまんであろうとカラクリであろうと、それが信じられているうちは、幸福なのでございますよ。あの可哀そうな業病人達は」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たとえ、嫉視しっし、迫害、排撃、あらゆるものがこの一身にあつまろうとも、範宴が講堂に立つからには御仏みほとけ偽瞞ぎまんきぬにつつむようなわざはできぬ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
オットーは偽瞞ぎまん家でも虚構家でもなかったが、あたかも吃者どもりが言葉を発するのに困難を感ずるように、真実を言うのに天性的の困難を感じていた。
日本人の生活に残存する封建的偽瞞ぎまんは根強いもので、ともかく旧来の一切の権威に懐疑や否定を行ふことは重要でこの敗戦は絶好の機会であつたが
天皇小論 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それは恐ろしい矛盾でした、婦人の言葉は真剣で熱心で、少しの偽瞞ぎまんがあろうとも思われなかったのです。
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
このことを求めて追えば、如何いかに地から生れ出た郷土のものに、工藝として正しいものがあるかに気附くであろう。都会の工場から生れるものには偽瞞ぎまんが如何に多いことか。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
たにの向こう側には杉林が山腹をおおっている。私は太陽光線の偽瞞ぎまんをいつもその杉林で感じた。昼間日が当っているときそれはただ雑然とした杉のの堆積としか見えなかった。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかし、恥を知らぬ自堕落な連中が、どこまでもただ道楽を道楽として臆面おくめんもなく下等にばか話を吹聴ふいちょうし合っている時、一人ひとり沈黙を守るのは偽瞞ぎまんでもなければることでもない。
私たちが如何様いかように自分の住むの近代の都市を誇称しようとも、そして昼夜のあらゆる時を通じて其処そこに渦巻くどんな悪徳や鋭ぎ澄ました思想によつて昂奮こうふん偽瞞ぎまんされてゐようとも
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
ああ、この偽瞞ぎまんにみちたインチキ日光に、青年は幾日幾月いくげつを憧れたことだったろう。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小作人たちと自分とが、本当に人間らしい気持ちで互いにひざを交えることができようとは、夢にも彼は望み得なかったのだ。彼といえどもさすがにそれほど自己を偽瞞ぎまんすることはできなかった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
偽瞞ぎまんがかい?」
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
「申されたり王朗。足下の弁やまことによし。しかしその論旨は自己撞着どうちゃく偽瞞ぎまんに過ぎず、聞くにたえない詭弁きべんである。さらばまず説いて教えん」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我々をして左様に信じさせたものは、小山田六郎氏の驚嘆すべき偽瞞ぎまんであったとしか考えられないのであります。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その偽瞞ぎまんに気づかぬどころか、現実のうわべだけを作中世界に似せ合わせることに成功することによって、彼は益々自作の熱愛読者となり、自作に酔っぱらい
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
すなわちそれは、穏和の偽瞞ぎまんであった。一つの力に衝突してそれを切り捨てることができない時に、ひそかに暗黙のうちにそれを窒息させようとすることだった。
彼等が自動車を見違えたのか、又は彼の男が故意に偽瞞ぎまんを行って彼等をまいてしまったのか、いずれとも断定し兼ねた。つまり狐につままれた感じである。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おぬしらの護らんという自由とは何? 伝統とは何? それは皆、自己の栄華にだけ都合のよい偽瞞ぎまん護符ごふではないか。もはやそんな護符が通用する世ではないぞ。時勢を直視なさい。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜなら彼らは、良心と良識とをもたずにそういうことに従事してる者があまりに多いのを見るからであり、自分もそれらの偽瞞ぎまん者や馬鹿者どもと同視されはすまいかを恐れるからであった。
加古川の沙弥しゃみのささやきが臆病な耳もとでわらうように聞える。まざまざと偽瞞ぎまん法衣ころもにつつまれた獣心のすがたを自身の中に発見する、万葉の話も、春秋のうわさも実はうわの空なのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度その時は、通り過ぎるから自動車もなかったので、彼女は当然柾木の車に走り寄った。いうまでもなく、柾木の偽瞞ぎまんこうそうして、彼女はその車を、辻待ちタクシーと思い込んでいたのである。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
、悪魔といったな。ようし、悪魔になってやろう。こんな偽瞞ぎまんの山に、仏ののりのと、虚偽なころもに、僧の仮面めんをかぶっているより、真っ裸の悪魔となったほうが、まだしも、人間として、立派だ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬鹿馬鹿しいというのはね、偽瞞ぎまんの方法が子供だましみたいだということで。だが、そのやり方は実にずば抜けて大胆不敵なのです。それが為に、この犯罪人は却って安全であったとも云いる。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
婆から「うまいこと、行きましたよ」とささやかれて、彼もまずは、ほっとした色だが、近所の外聞、人目の偽瞞ぎまん、そして役署の検死やら火葬の認証やら、無事、灰にしてしまうまでは、まだまだ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに罪を他に転嫁する為の偽瞞ぎまんが行われた場合は一層それがはなはだしい。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
愛之助の方で、それ程も、怪物の偽瞞ぎまんに物狂わしくなっていたのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『われわれの眼を偽瞞ぎまんする大石の策略さくりゃくだろう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)