かたはら)” の例文
ばあさんが古手桶ふるておけを下げて出て参り升て、私どもの腰かけてるかたはらの小川の中へ手桶ておけを浸し、半分ほどはいつた水を重気にもちあげ升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
かたはらで湯を浴びてゐた小柄な、色の黒い、すがめの小銀杏が、振返つて平吉と馬琴とを見比べると、妙な顔をして流しへたんを吐いた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すると何時の間にか源助さんがかたはらに来てゐて、自分の耳に口をあてて『厭だと言へ、厭だと言へ。』と教へて呉れた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あゝさうや。」と俄に氣が付いた容子で、盃を置いて立ち上り、押入の小箪笥から京子の大事にしてゐた短刀を取り出して、死骸のかたはらへ置きに行つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
東京の随所には敗残した、時代の遺骸なきがらかたはらに青い瓦斯の火がともり、強い色彩と三味線とに衰弱した神経が鉄橋と西洋料理レストラントとの陰影に僅かに休息を求めてゐる。
新橋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
頼春水の松雨山房を訪。(国泰寺のかたはらなり。)春水在家いへにありて歓晤。男子賛亦助談。子賛名のぼる、俗称久太郎ひさたらうなり。次子竹原へ行て不遇あはず。談笑夜半にすぐ。月のぼりてかへる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
先生の宿志しゆくし、ここにおいてか足れり。すでにしてきやうかへり、即日、ところ瑞龍山ずゐりゆうざん先塋せんえいかたはらさうし、歴任れきにん衣冠魚帯いくわんぎよたいうづめ、すなはち封し載ちし、自ら題して、梅里先生ばいりせんせいはかふ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉住求馬もとめもこの斷末魔の同僚のかたはらに悲痛な顏を差寄せました。
こなた右手めてなるかたはら
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
じだらくに居れば涼しきゆふべかな。宗次そうじ。猿みの撰の時、宗次今一句の入集を願ひて数句吟じ侍れどとるべき句なし。一夕いつせき、翁のかたはらに侍りけるに、いざくつろぎ給へ、我もふしなんとのたまふ。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
墓は檗山竜興院の墓地、独立どくりふの墓のかたはらに立居候。前面には錦橋池田先生墓、(此一字不明)弟子近藤玄之、佐井聞庵、竹中文輔奉祀、右側には文化十三年丙子九月六日と有之候。其他何も刻し無之候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)