佝僂せむし)” の例文
その足もとに、佝僂せむしの少年が途方にくれて立っていた。ベルトは最初ひどく心を痛めた。グライヨーが負傷したのだと遠くから思った。
電車は佝僂せむしのやうに首をすくめて走つてゐたが、物の小半丁こはんちやうも往つたと思ふ頃、うしたはずみか、ポオルがはづれてはたと立ち停つた。
「父さんてば、よう、父さん!」今まで椅子に坐って黙りこんでいた佝僂せむしの娘が、いきなり言ったかと思うと、ハンカチで顔を隠した。
右へ数えて五つ目が現場のへやだった。部厚な扉の両面には、古拙な野生的な構図で、耶蘇イエス佝僂せむしを癒やしている聖画が浮彫になっていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さうすると笑は、主人が自分より、十三も年上であること、そして佝僂せむしであること、そして子供は流産したと極く簡単に話した。
啓司が気がつくといつの間にかまた一人、往還へ出て佝僂せむしのような男がやはり、拾いの服装をして往還の右側を拾って行きます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
恐ろしい佝僂せむしで、高く盛上がった背骨にられて五臓ごぞうはすべて上に昇ってしまい、頭の頂は肩よりずっと低く落込んで、おとがいへそを隠すばかり。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
昌作は聞かぬ振をして、『英吉利の詩人にポープといふ人が有つた。その詩人は、佝僂せむし跛足びつこだつたさうだ。人物の大小は體に關らないさ。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
も一人は図画の教師のアンシオー氏で、前に数行引用した一寄宿生の手紙の中ではアンシオ氏と呼ばれていて、恐ろしい佝僂せむしの老人だと書かれている。
停車場の時計でまさに午後四時三十一分、臨時列車は、佝僂せむしのカラタール氏と巨人のような従者とを載せ、白い湯気を吐いてリヴァプール駅を発車した。
十三になるかならぬかのいくらか佝僂せむしのその少女は、きかれると片肘かたひじでKを突き、そばから彼の顔をじっと見た。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
背丈がグッと低く、十三、四歳の日本児童ぐらいにしか見えないところへ、頸部は普通の西洋人以上に巨大おおきく発達しているために、どうかすると佝僂せむしに見え易い。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この美しく明朗な容貌と、あの恥ずかしい佝僂せむしの姿との組合せは、いったいなんの意味を物語るのであろうか? 彼はテーブルに帰り、再びガペンを取り上げる。
これは私の家の庭に住む佝僂せむし女である。彼女は自分が佝僂のせいで、よくないことばかり考えている。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
身長せいが人並みよりきわ立って低く、頭が人並みよりとりわけ大きく、侏儒しゅじゅ佝僂せむしかを想わせた。そういう金兵衛がそういったようすで、あえぎあえぎ走って行くのである。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この国に多すぎるものは、いびつな風癲者と佝僂せむし。それにどこか横紙やぶりの類諺集なぞ。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
平次の右足は二三寸短かくなつて、左肩下りの醜怪な佝僂せむしの恰好になつて了つたのです。
お客は私の背丈の丁度半分位しかない佝僂せむし男で、大きな背こぶを揺りうごめかしながら引掻かんばかりの権幕で主人に喰ってかかっているが、それが一見して親方コブセに相違ないと思われたからである。
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
佝僂せむしや太っちょも、どんなに見えても構わずに
種村の寿女すめさんは佝僂せむしであった。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
佝僂せむしで病身でいじけていたが、小僧の役目をしていた。彼の母親は、十七歳のとき家を捨てて、よからぬ労働者と駆け落ちしたのだった。
昌作は聞かぬ振をして、『英吉利イギリスの詩人にポープといふ人が有つた。その詩人は、佝僂せむし跛足ちんばだつたさうだ。人物の大小は体に関らないサ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この時、大梁の方角から旅車の一つがわだちを鳴らして来たが荘子の前へ来ると急に止まって御者ぎょしゃ台の傍から一人の佝僂せむしが飛降りた。近付いて来ると
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
朝枝は水っぽい花模様の単衣ひとえを着、薄赤とき色の兵児へこ帯を垂らしているが、細面の頸の長い十六の娘で、その四肢てあしは、佝僂せむしのそれのように萎え細っていた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
やはり二十歳ばかりの若い娘ではあったが、見るもあわれな佝僂せむしで、あとでアリョーシャの聞いたところによると、両足がえてしまったいざりだとのことであった。
にんじんはひうちをおもちゃにする。そして、歩きかたが下手へたで、佝僂せむしかしらと思うくらいだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
と、みじめな佝僂せむしは、とがった肩を精一杯いからせて横柄おうへいに言うた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「あつたよ、今度は、見事にあの佝僂せむしの胸に突つ立つたまゝ」
眼がよくきかないからといって人をあざけるのは、佝僂せむしだからといって人をあざけるのと、同じくらい残忍なことである、と彼はみずから言った。
一人は足えの阿呆あほう、もう一人は足痿えの佝僂せむし、もう一人は足も達者で、利口すぎるくらいでございますが、女学生でして、もう一度ペテルブルグへ行くと申して、何でもネヴァ川の岸で
「旦那、今度は佝僂せむしの菊治がやられたさうですね」
佝僂せむしの身体に熱烈な魂を包んでる彼は、戦いを必要としていたが、戦いに適してはいなかった。ある種の邪悪な批評に接すると、血が流れ出るほど傷つけられた。
くちびるの裂けたシャカバクや、おしゃべりの理髪師や、カスガールの小さな佝僂せむしなどを、たしかに知ってる気がしたし、また、宝捜しの男の魔法の木の根をくわえてる黒い啄木鳥きつつき