“些末(さまつ)” の例文
準備を整(ととの)えていさえすればいかに卑近(ひきん)な教えでも、いかに些末(さまつ)な忠告でも、必ずこれを受け取って発芽(はつが)して、花咲かせて実るものと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
生活上の種々なことに於(おい)て、人に譲歩する寛い心を持っているので、些末(さまつ)なことで人と争ったり、人をへこましたりすることを好みません。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
「忙(ぼう)におわれ、些末(さまつ)に拘泥(こうでい)しておって、つい大局を見失っていた。荀攸! なぜ其方は、もっと早く予に注意しなかったのだ」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのような些末(さまつ)なことまで御訊問とは存じませんので」と要屋喜四郎が答えた、「控えの帳簿をしらべませんければお答えが申上げかねます」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かえって上記のごとき零細些末(さまつ)な現象が意外にも重大な役目をつとめることを発見して驚く場合があるであろう。
ニュース映画と新聞記事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
全く公卿(くげ)にも似た馴致(じゅんち)と遊楽と、形式と慣習と、些末(さまつ)な事務よりほか何ものも約束しない、奉公の将来が、すっかり、底の見えたものに考えられてきた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この容態(ようだい)で氏は、家庭に於(おい)て家人(かじん)の些末(さまつ)な感情などから超然(ちょうぜん)として、自分の室(へや)にたてこもり勝(が)ちであります。
日常生活の些末(さまつ)の点まで律法によって律しようとする形式主義は、多くこの類のことをなしているのです。パリサイ人しかり、ローマ法王しかりであります。
病人を介抱すると言ふのは畢竟(ひっきょう)病人を慰めるのにほかならんのであるから、教へることも出来ないやうな極めて些末(さまつ)なる事に気が利くやうでなければならぬ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
極めて些末(さまつ)なる装飾品までも、何が故に人生に要ある。何が故に歌ある。何が故に詩ある。何が故に温柔なる女性の美ある。何が故に花の美ある。何が故に山水の美ある。
それでその、人の真似をするということは、子供の内から始まって、今言ったような些末(さまつ)の事柄ばかりでない、道徳的にもあるいは芸術的にも、社会上においてもそうである。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際彼から見ていても、父の申し出の中には、あまりに些末(さまつ)のことにわたって、相手に腹の細さを見透かされはしまいかと思う事もあった。彼はそういう時には思わず知らずはらはらした。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ロミオ 此(この)黄金(こがね)を遣(つかは)すぞ、これこそは人(ひと)の心(こゝろ)の大毒藥(だいどくやく)ぢゃ、汝(おぬし)が賣(う)りかぬる此(この)些末(さまつ)なる藥種(やくしゅ)よりも此(この)濁世(ぢょくせ)では遙(はるか)に怖(おそろ)しい人殺(ひとごろ)しをするもの。汝(おぬし)では無(な)うて予(わし)こそは毒(どく)を賣(う)るのぢゃ。さらば。
些末(さまつ)な事務が、重大な問題に考えられ、その判断を追えば追うほど、いずれにしたらよいのか分らなくなった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼈四郎のような生活の些末(さまつ)の事にまで、タイラントの棘(とげ)が突出ている人間に取り、性抜きの薄綿のような女は却(かえ)って引懸り包(くる)まれ易い危険があったのだった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その提出された仕事が問題の各方面を引っくるめた全体の上から見ると実に些末(さまつ)な価値しかないものと他の多くの人からは思われるものであっても、それが丁度
学位について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかるに不折君に向つての注文は大主意だに説明し置けば些末(さまつ)の事は言はずとも痒(かゆ)き処に手の届くやうに出来るなり、否(いな)余ら素人の考の及ばざる処まで一々巧妙の意匠を尽(つく)せり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかしこの些末(さまつ)な嗜好品の流行の事実もそう軽々には見遁(みのが)すことの出来ないものではあろうと思われる。
チューインガム (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「大丈夫たる者は、およそ事の些末(さまつ)にとらわれず、大乗的に身を処さねばなりますまい。いま丞相は朝廷の第一臣、敗亡の故主を恋々とお慕いあるなど愚かではありませんか」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手近な些末(さまつ)な例をあげると、銀座(ぎんざ)の裏河岸(うらがし)のある町の片側に昔ふうの荷車が十台ほどもずらりと並べておいてある、その反対側にはオートバイがこれも五、六台ほど並んで置かれてあった。
カメラをさげて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
瀬兵衛も右近も、最前からの不快は拭(ふ)き消された。こんどの一戦を前にして、秀吉が剃髪して臨むまでの決意を見せている以上、些末(さまつ)な私情に駆られるなどは、みずから恥ずべきだと思った。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他の人達が天下国家の一大事であるかのごとく議論している事が、自分には一向に一大事のごとく感ぜられないで、どうでもよい些末(さまつ)な事のように思われる時ほど自分を不幸に感じることはない。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
些末(さまつ)な感情などにとらわれている場合ではない。玄徳は二人へいった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またあまりにわずらわしき些末(さまつ)の詮索(せんさく)に堕するほかはないであろう。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)